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リオの煌めきを爪弾きと歌声で
稀に偶然は起きる。編集部からの依頼通知を開けた時、部屋には偶々『CAFE BLEU SOLID BOND』が流れていた。naomi & goroがスタイル・カウンシルの傑作盤をフルカヴァーした2013年の作品で大好きな一枚だ。〈ジカ熱〉緊急事態宣言下でリオのカーニバルが開幕した翌日の午後、渋谷の11階のカフェで伊藤ゴロー氏に新譜の話を伺った。
naomi & goro名義では7年ぶりのオリジナル盤にして11作目の『RIO, TEMPO』は9曲入り。この間、じつに多彩なコラボ活動やソロ作も3枚作り、naomi & goro & 菊地成孔名義も挟んできたゴロー氏は開口一番、「当初はnaomi & goroに戻る感覚がなかなか掴めないというか、オリジナル曲も書き溜めてきたわけではないので何らのアイディアもなかった」と明かした。「初心に返って二人だけでもいいかな」という初期案も「曲を作っているうちにいろいろと欲が出てきて(笑)」結局はリオの常連リズム隊と伊藤彩氏(ヴァイオリン)が参加。坪口昌恭氏が終盤の2曲でRhodesを奏でるという構成になった。口火を飾るのはジョビン=ヴィニシウスの“BRIGAS NUNCA MAIS”。7曲目の“RIO”は「ライヴでは昔からよく演ってきたカヴァー曲なのですが、なぜかアルバムには入れた事がなくて」漸く今回で実った。
そんな作業を進めるにつれ、徐々に〈リオに捧ぐ〉的な潮流が浮上してきて、ジョビン・ファミリーの一人であるパウラ・モレレンバウム氏に2曲の作詞を依頼。「録音で通算4回訪れている僕自身の、リオへの想いをメールで伝えて」書き下ろしてもらった。うちの一曲で忘却を歌った“OBLIVION (ESQUECIMENTO)”の訳詞を読むと、後半にこんな素敵な表現がある。♪甘い川としょっぱい海が手の中で交じり合う…恋模様を汽水域に喩えたパウラ氏の粋な詞からは男女関係の機微だけに止まらず、日本人のnaomi & goroが共にブラジル音楽に魅せられてコンビを組んだ頃の原初の想いや航跡さえもが透視できる。
「僕は結構遠回りをして二十歳過ぎてからボサノヴァを始めたのですが……最初はどうしても日本人がそれを真似る事のジレンマに見舞われたり、じぶんが本当にやりたい事はボサノヴァではないんじゃないかとか(笑)、妙にへそ曲がりなところがあって」とは意外なゴロー語録。が、そんな足元のぐらつきも初のリオ録音で現地入りした途端に吹き飛んだ。「向こうの人たちは〈おっ、日本人もなかなかやるじゃん〉とか(笑)、〈しかも日本的でいいよ〉とか、半ばお世辞も含まれているんだろうけれども誉めてくれてね」、以降は「楽になった」。そんなリオの風土と音楽(仲間)への思慕が全編に溢れている一枚!