伊藤ゴローとジャキス・モレレンバウムは09年以来、さまざまなプロジェクトで共演を重ねてきた。そして今夏、伊藤ゴローとジャキス&パウラ・モレレンバウム夫妻は、ブルーノート東京で一夜限りのライヴを行い、その後に同じ編成のバンドと共にスタジオ入り。そうして出来上がったのが、『ランデヴー・イン・トーキョー』だ。この初の共同名義アルバムには、伊藤とジャキスにとって最大の共通項的存在であるアントニオ・カルロス・ジョビンの6曲を中心に、二人のオリジナル曲が収められている。
「僕はジョビンの曲をそれほど多く録音してきたわけではなく、今回選んだ〈ショーロ〉と〈パッサリン〉は、ライヴですら演奏したことがない。というのも、〈パッサリン〉はギターで弾こうとすると、ジョビンの曲の中でも、とりわけ難しい。でも今回はジャキスが一緒なので、チャレンジしようと思いました」
ジャキスは、“バンダ・ノヴァ”のチェロ奏者として、最晩年までジョビンの側にいた。それだけに、彼はジョビンの音楽の最良の理解者の一人である。
「ジャキスはジョビンの曲の構造を、縦糸横糸から細部に至るまですべて把握している。しかもジョビンがこの曲やあの曲をどういう風に演奏したかということもよく覚えている。つまり譜面に書かれていないことも知ってるんです。だから本当に心強かった」
坂本龍一によるアントニオ・カルロス・ジョビン作品集『Casa』(01年)。この名盤は、ジャキス&パウラ夫妻の存在を抜きに語れないが、『ランデヴー・イン・トーキョー』は、ある意味で『Casa』へのオマージュでもあるという。
「『Casa』は、僕の中でかなり重要な位置を占めているアルバム。ジャキスとパウラもあのアルバムをすごく大切に思っている。だから僕たちが今回録音したジョビンの曲は、暗黙のうちに『Casa』がベースになっていて、特にパウラはその意識が強かった」
伊藤ゴローは中学生の時に『ゲッツ/ジルベルト』を聞き、初めてジョビンの音楽に出会った。そして彼は、このアルバムの誕生から50年後、ジャキスも参加したトリビュート・アルバム『ゲッツ/ジルベルト+50』(13年)のプロデュース/アレンジを手掛けた。伊藤ゴローにとってジョビンの音楽の探究は、ライフワークになりそうだ。
「ジョビンの音楽は本当に奥が深いので、これからも色んな形で探求していきたい。そのためにもジョビンより少し前のブラジルの作曲家、たとえばハダメス・ジナタリの作品も少しずつ聴いています。ジョビンのルーツに関しては、まだまだ分からない部分があるから」