ポスト・ロックの牽引者にして刷新者たるtoeの24年
Dove、REACH、popcathcerといったパンク〜ハードコアのバンドで活動していた山㟢廣和、美濃隆章、山根敏史、柏倉隆史の4人が集まって、2000年にtoeを結成。のちにスプリットを発表するペレやシカゴのキンセラ・ファミリー周辺(特にゴースツ&ウォッカ)などの影響を消化した、ソリッドにしてリリカルなインストを鳴らし、2003年のデビューEP『songs, ideas we forgot』で衝撃を与えた。クリーン・トーンのギターによる叙情的なアルペジオ、柏倉による手数の多いエモーショナルなプレイなど、記名性の強い要素を多数内包した2005年発表のファースト・アルバム『the book about my idle plot on a vague anxiety』は、その後の日本のポスト・ロックにおける教科書となり、シーンの顔としての地位を確立させた。
クラムボンのミトがプロデュースを担当し、山㟢のヴォーカルをフィーチャーした屈指の名曲“グッドバイ”を含む『new sentimentality』を挟んで、2009年発表のセカンド・アルバム『For Long Tomorrow』ではネオ・ソウルやヒップホップに接近し、変拍子やポリリズムを用いながらもループ主体の楽曲を構築。いまにして思えば2010年代のトレンドを先取っていたとも言えるだろう。ゲストには原田郁子や土岐麻子らが参加し、土岐が参加したアルバム版の“グッドバイ”は〈フジロック〉での名演も語り草となっている。
コーエン兄弟の映画をモチーフにしたタイトルのEP『The Future Is Now』を経て、2015年に発表したサード・アルバム『HEAR YOU』ではメインの楽器がアコギやピアノへと変化し、さらにはChara、5lack、木村カエラ、U-zhaanといった多数のゲストが参加することによって、これまででもっともヴァラエティー豊かな作品となった。また、この頃から山㟢のヴォーカルの割合が増えはじめて、その傾向は2018年のEP『Our Latest Number』、さらには新作の『NOW I SEE THE LIGHT』にも繋がっていると言える。
toeは音楽と仕事を両立させるスタンスを貫いていて、メンバーそれぞれがtoeとは別の本業を持っている。山㟢はインテリア・デザイナー、山根はファッション・デザイナーとして活躍しており、美濃はレコーディング・エンジニアとしてenvy、downy、LITE、ゲスの極み乙女などを手掛けてきた。2020年にはプライヴェート・スタジオ〈oniw studio〉が完成し、新作の録音にも使用。柏倉はドラマーとしてthe HIATUSに参加するほか、木村カエラやACOらをサポート。最近ではKID FRESINOの楽曲に参加をして、ライヴで石若駿とのツイン・ドラムを披露したことも大きな話題を呼んだ。 *金子厚武
toeの作品と近年の参加作を一部紹介。
左から、2003年のEP『songs, ideas we forgot』、2005年作『the book about my idle plot on a vague anxiety』、2006年のEP『new sentimentality』、2009年作『For Long Tomorrow』、2012年のEP『The Future Is Now』、2015年作『HEAR YOU』、2018年のリミックス盤『That's Another Story』、EP『Our Latest Number』、2023年のシングル “MOTHER(Feat ILL-BOSSTINO, 5lack)”(すべてMachu Picchu Industrias)、2021年のサントラ『Sonny Boy』(flyingDOG)、KID FRESINOの2021年作『20,Stop it.』(DOGEAR/AWDR/LR2)