子供の頃から〈歌しかない〉と密かに心に決めていたという南壽あさ子。昨年メジャー・デビューを果たして以来、日本の47都道府県すべてを回るツアーをスタートさせた彼女は、今年2月にファイナルを迎えた。その成功を糧にして、歌への思いはひと回り強くなったようだ。
「ライヴハウスだけではなくて、カフェとか、バーとか、いろんなところで歌ってきたんですけど、どんな場所でも同じように歌うことを心掛けていました。私は47回歌っていても、ライヴに来てくれた人には貴重な1回ですから。毎回のライヴにまっさらな気持ちで挑めるように、心や身体を〈整える〉ことを意識しました」。
そして、ツアーという節目を経た彼女が、新たな気持ちで挑んだのがニュー・シングル“みるいろの星”だ。サウンド・プロデュースはこれまで彼女の作品を手掛けてきた湯浅篤に変わり、凛として時雨のTKという意外な組み合わせで、南壽の次なるスタートを感じさせる曲に仕上がった。
「これまではツアーをしながら東京に帰ってレコーディングしていたんですけど、今回は初めてレコーディングだけに集中できたんです。TKさんは以前、私のインディー時代のシングル“フランネル”をおすすめの一枚に挙げてくださっていて、私もTKさんのソロを聴いてすごく好きだったので、ぜひいっしょにやらせてもらいたいと思いました。TKさんがすごく緻密で繊細なデモを作ってきてくれてびっくりしました」。
レコーディングにはドラムに柏倉隆史(toe/the HIATUS)、ベースに山口寛雄(100s)を迎えて、これまでにない昂揚感に満ちたバンド・サウンドを聴かせてくれる。
「これまでは打ち込みの曲が多かったんですけど、この曲のテーマが輪廻転生というか、地球を越えて宇宙まで広がるような世界観の曲だったので、生音が合っているような気がしたんです。生音でしか出ない深みとか、余韻が合っているんじゃないかって。学生時代にtoeをよく聴いていたので柏倉さんに叩いてもらったのは嬉しかったですね。柏倉さん、レコーディングでは毎回演奏が違うんですけど、いつもすごく躍動感があるんです」。
彼女は歌以外にピアノを演奏。ストリングスを加えたエモーショナルで広がりのあるトラックのなかを、南壽の澄んだ歌声が流星のように駆け抜けていく。その一方で、同時収録の“邂逅”は湯浅篤がプロデュース。ピアノの弾き語りを軸にして、トロンボーンの温かな音色をアクセントとするアコースティックなナンバーに仕上がった。
「小学校の教室みたいなイメージで、学校にある楽器というコンセプトでアレンジを考えました。私のなかではアニメに出てくるミュージカル・シーンで流れているような感じのイメージなんです。みんなが歌いながら話が進んでいくような」。
ちなみにタイトル曲の〈みるいろ(海松色)〉とは日本古来からある色で、オリーブグリーンに近い色。「海の底の海藻を思わせる〈海松〉という漢字と、〈見る〉に通じる〈みる〉という言葉の響きが気に入ったんです」とのことだが、“邂逅”では〈虹の色〉がキーワードになって、〈自分の好きな色になろう〉と歌われていたりもする。では、彼女自身がなりたいのはどんな色だろう。
「白、ですね。普段生活していて白になるのがいちばん難しい気がするんです。いろんな人と関わっていたら、それだけいろんな色に染まってしまうので、白であり続けるには芯がなければいけない。でも、逆にどんな色でも受け入れる色でもあって、何が描かれるかわからないキャンバスみたいなイメージもある。大好きな色です」。
真っ白なハートを持ったシンガー・ソングライター、南壽あさ子。そこに描き込まれる風景が、彼女のかけがえのない歌になるのだ。
PROFILE/南壽あさ子
89年、千葉生まれのシンガー・ソングライター。幼少の頃からピアノを、20歳の頃から作詞/作曲を始め、2010年より都内で弾き語りライヴを開始する。2012年6月にファースト・シングル“フランネル”を発表。同年11月には初のミニ・アルバム『Landscape』を送り出し、年を跨いで全国29か所を巡るツアーも開催。2013年6月にその模様を収めたライヴDVD「Landscape2」を南壽あさ子×かくたみほ名義で上梓すると、10月にはシングル“わたしのノスタルジア”でメジャー・デビュー。直後の全国47都道府県を訪れるツアーを完結したのち、2014年3月にはシングル“どんぐりと花の空”を発表。このたびニュー・シングル“みるいろの星”(トイズファクトリー)をリリースしたばかり。