©Yoshiharu Ota

ハードコア・パンクを出自に、美しく抒情的なポスト・ロックで世界を魅了してきた4人組の最新アルバムが、アナログ盤で登場! 演奏に宿る魔法の背景、独立独歩の活動を続けてきた理由――揺るぎなき哲学を明かす!!

熱狂とクールの交錯

 今年7月にCD/配信で発表されたtoeにとって4作目のアルバム『NOW I SEE THE LIGHT』がフル・レングスとしては9年ぶりのリリースだと聞いて、ちょっと驚いた。ここ数年でも何度かライヴを見ていたし、世界的に人気が高い日本のバンドとして海外のリスナーから名前が挙がることも多く、大きなブランクがあるとは感じていなかった。しかも、toeは2025年に結成25周年を迎える、変わらぬメンバーで、自分たちのペースで続けてきたバンドだ。だからこそ変わらない部分と変わりゆく部分、その両方を自然に受け入れている魅力がこの新作にはある。バンドの持つ熱気とクールさが、これまで以上に自然に混ざり合っているようにも感じる。ギタリストの山㟢廣和と、同じくギタリストでエンジニアでもある美濃隆章に話を聞いた。

toe 『NOW I SEE THE LIGHT』 Machu Picchu Industrias(2024)

「すごくオリジナリティーのある、みんなが聴いたこともないような斬新な音楽をやろうとは最初からまったく思ってなくて。でも、この歳になると自分の生き様みたいなものが図らずも音楽に滲み出るようになってきている気もします。それが独自性のようなものを感じさせているのかも。バンドとしてのカッコ良さの理想と、常に自分が感じている〈自分は本物ではない〉という部外者の感覚、その両方を行ったり来たりしているんです。そういう意味での熱狂とクールの交錯があるのかなと最近は自覚してますね。あと音源に関しては、最初のアルバムを作る時点で、バンドのドライヴ感を活かしたものより、淡々としていて楽曲の良さが全面に出ているものにしたいという気持ちがありました。リスナーとしての自分が長く聴いてる作品は演奏に熱量があるものより、淡々としているものが多い。それこそヒップホップやダンス・ミュージックの多くは、演奏の勢いで盛り上がるわけじゃないから」(山㟢廣和、ギター)。

 日本語詞の歌モノ楽曲が4曲収録され、山㟢廣和の歌声が聴ける(“WHO KNOWS?”では児玉奈央とデュエット)ことも本作の聴きどころだが、それらもtoeの文脈にしっかり収まっている。

「インスト曲ってアンサンブル自体が作曲みたいな感じだし、もうtoeではだいたい自分の好みの展開はやり尽くしている気がして。だから最近はインストのほうが歌モノよりも作曲に時間がかかる。逆に歌モノは歌メロがおのずとメインになるから、オケはシンプルにやっても成立するし、そういう点ではラク。あと、自分がいま好んで聴いてる音楽はどちらかといえば歌モノが多い。だから、これからも自然に出来ていくんじゃないかなと思います」(山㟢)。

 歌詞については、最初は意味を持たない〈宇宙語〉を当てていき、やがてメロディーが完成した段階でデモに聴感的に近い感じの言葉を探して完成させるのだという。偶然性を活かしたプロセスのようにも思えるが、やはりそこにも意味や意志は宿る。本作に収録された“LONELINESS WILL SHINE”は当初はインスト曲で、その段階では“Loneliness Shines”というタイトルだった。歌詞が加わることでそこに未来を意識した〈WILL〉が加わった。その変化は、『NOW I SEE THE LIGHT』というアルバム・タイトルが示唆する、戦争や分断が絶えない世界に光を見い出す詩情とも響き合う。

「〈LIGHT〉という単語は、自分的には〈希望〉という意味合いで使ってます。ジャケットに使った写真もそう。佐藤健寿くんの写真を使わせてもらうことは決めていたので、こういうタイトルになったよって佐藤くんにLINEしたら、ちょうど九州で撮った灯台の写真がある、と見せてくれて。ばっちりのタイミングでパーツが組み合わさった瞬間でした」(山㟢)。