ホワイト・ストライプスとは違う発想
とまれ、『No Name』を作るにあたっては、リフもののロックという大きなテーマがあったことは間違いない。そのなかでブルース・ロック、ガレージ・ロック、ハード・ロック、プロト・パンクという言葉で表現できる変化を曲ごとに付け、ジャックは最後までリスナーを飽きさせない。彼を語るとき、たびたび引き合いに出されるレッド・ツェッペリンはもちろん、なかにはリズムを刻むギターのブリッジ・ミュートがキッス(“Number One With A Bullet”)を、ギター・リフがキンクス(“Missionary”)を連想させる瞬間もあるが、聴きどころはそれだけにとどまるものではない。
たとえば、レッド・ツェッペリン風のリフにジャックがラップ風の歌を乗せる“Archbishop Harold Holmes”や、ハード・ロッキンなブギと思わせ、エフェクトを掛け、左右にパンニングしたギター・リフも含め、リヴァービーな音像で他の曲に差を付ける“Morning At Midnight”は単純に原点回帰という言葉では語れない、前2作からの連続性が感じられる。
また、スライド奏法やワウペダルも駆使しながら、ジャックが一人で重ねたメズマライジングな複数のギターのアンサンブルや、クインシーがギミック的に加えたキーボード・サウンドは、ストリップ・ダウン(=余計な装飾を削ぎ落とした)という言葉を流行らせたホワイト・ストライプスとは、そもそも発想が違うものだと考えるべきだろう。
そんなところにこそ真の聴きどころがあるのかもしれない『No Name』のレコーディングに参加したのは〈Supply Chain Issues Tour〉を共にした前述の3人に加え、同ツアー中にジャックと結婚したオリヴィア・ジーン(ベース/ドラムス)、カーラ・アザール(ドラムス)、ラカンターズの盟友パトリック・キーラー(ドラムス)ら気心の知れたミュージシャンたちだが、彼らに混じってジャックの18歳になる愛娘・スカーレットが“Archbishop Harold Holmes”とブルース・ナンバーの“Underground”でベースを弾いていることも話題のひとつと言えそうだ。ジャックの親馬鹿ぶりと堅実にリズムを刻むスカーレットのベース・プレイが微笑ましい。
ところで、名前を伏せたプロモーションと言い、『No Name』という表題と言い、ジャックは現代のロック・シーンを代表するビッグネームとしてではなく、それこそ名もなき一介のロック・ミュージシャンの作品として、このアルバムを聴いてほしかったんじゃないかと思ったりもする。もし、ピークアウトからの新たなスタートという意味合いが『No Name』にあるのだとしたら、ジャックの活動はここからさらにおもしろいものになっていくんじゃないか。『No Name』を聴きながら、そんな予感にわくわくしている。
ジャック・ホワイトのソロ名義アルバム。
左から、2012年作『Blunderbuss』、2014年作『Lazaretto』、2018年作『Boarding House Reach』(すべてThird Man/Columbia)