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筋肉少女帯と人間椅子、江戸川乱歩のエログロを体現するバンドの登場

“ハイスクールララバイ”の陰に隠れがちですが、イモ欽トリオのセカンドシングル“ティアドロップ探偵団”も前作同様に松本と細野晴臣のはっぴいえんどタッグによるテクノ歌謡の佳作。歌詞には明智や二十面相、小林君など、江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズでお馴染みの名前が登場しています。

松本隆に限らず「少年探偵団」関連はロック/ポップスでの使用頻度が高めで、はちみつぱいのメンバーが在籍していた山本コータローと少年探偵団や、珍盤“恐怖の人間カラオケ”で好事家に知られるそのものずばりな少年探偵団。怪人二十面相の名前が飛び出す三上寛の“パンティストッキングのような空”や、寸劇ディスコが展開されるアーリー・バード・シンジケートの“ソウル怪人二十面相”などが思い浮かびます。

一方で子供向けではない大人(エログロ)の乱歩作品となると、少なくとも1970年代にはあまり見当たりません(佐井好子の“鏡地獄”くらい?)。ところが1980年代になるとエログロな乱歩から濃厚な影響を受けた2組のバンド、筋肉少女帯と人間椅子が登場します。この頃から乱歩はミステリや少年モノといったジャンル小説の枠を越え、サブカルチャーのポップアイコンとして受容されはじめた感があるのですが、この2組はその過程に大きな影響を与えているように思います。

筋肉少女帯は熱烈な乱歩フリークである大槻ケンヂの偏愛により、全てを回収するのは困難なほど至るところに乱歩味が頻出していますが、とりあえず主だったものだけ紹介しましょう。まずインディーでのデビューシングルのB面“から笑う孤島の鬼”は「孤島の鬼」、3枚目のアルバム『猫のテブクロ』(1989年)収録の“月とテブクロ”は「月と手袋」、4枚目のアルバム『サーカス団パノラマ島へ帰る』(1990年)は「パノラマ島奇談」と、どれも乱歩の小説をモチーフにしています。

筋肉少女帯 『猫のテブクロ』 トイズファクトリー(1989)

筋肉少女帯 『サーカス団パノラマ島へ帰る』 トイズファクトリー(1990)

そして『エリーゼのために』(1992年)収録の“世界の果て~江戸川乱歩に~”ではついに乱歩の名前をタイトルに冠してしまいますが、さらに凄いのは『UFOと恋人』(1993年)に収録されている“パレードの日、影男を秘かに消せ!”。「影男」も乱歩の作品名ですが、何よりも詞の中で乱歩に宛てた手紙を披露してしまうのだから唸る以外ないでしょう。

筋肉少女帯 『エリーゼのために』 トイズファクトリー(1992)

筋肉少女帯 『UFOと恋人』 トイズファクトリー(1993)

人間椅子はバンド名からして乱歩の小説そのままですが、曲名も“陰獣”、“踊る一寸法師”、“怪人二十面相”、“芋虫”、“地獄風景”などストレートに引用しています。

しかも彼らは乱歩以外の文学作品も大量にモチーフとしているので、試みにその一部を挙げてみましょう。太宰治「人間失格」、横溝正史「悪魔の手毬唄」、坂口安吾「桜の森の満開の下」、夢野久作「爆弾行進曲」、泉鏡花「夜叉ヶ池」、山田風太郎「太陽黒点」、芥川龍之介「羅生門」、谷崎潤一郎「痴人の愛」、井伏鱒二「山椒魚」などなど。人間椅子はまさに今回のテーマに相応しい稀有な〈文学ロック〉だといえるでしょう。じつは10年ほど前にインタビューをしたことがあるのですが、そのときも和嶋慎治氏が影響を受けた文学について熱く語ってくれたことを今でも憶えています。

なお、乱歩と同時期にやはりサブカルアイコンとして受容されつつあった夢野久作関連では、80sインディーを代表するトランス・レコードの雄YBO2のファーストアルバム『ALIENATION』(1986年)収録の“Doglamagla”と“猟奇歌”が、題名ばかりか詞の内容まで久作的な狂気世界に踏み込んでいる必聴曲でしょう。

YBO2 『ALIENATION』 トランス(1986)