YOASOBIやヨルシカ、文学と最新のJ-POPが交わる現在
本稿の主旨とはややズレますが、1990年代にはまた、辻仁成や町田康、中原昌也などのミュージシャンが作家デビューして華々しい活躍を始めました。2000年代に入ると作家の古川日出男が向井秀徳や後藤正文らと朗読セッションをしたり、伊坂幸太郎がThe ピーズやTOMOVSKYと小説を介してコラボをしたりと、文学と音楽もオンタイムでの交流が図られ多様化していきます。その最大の成果ともいえる存在が〈SNSに投稿された小説を音楽化するユニット 〉として結成されたYOASOBIでしょう。彼らは小説との同時代性を徹底している点からも文学ポップの最新型に違いありません。
最後にここ最近の〈ロック/ポップスに登場する日本文学〉についてだけ簡単にまとめておきましょう。ヨルシカが〈聴ける画集〉としてリリースした『幻燈』(2023年)は、文学作品をオマージュした全25曲から成る作品。萩原朔太郎の詩集に影響を受けた“月に吠える”を筆頭に、川端康成から取った“雪国”や宮沢賢治を思わせる“又三郎”、さらにはヘミングウェイやジッドら海外文学までリスペクト。〈文学の要素を組み入れた音楽を作りたい〉というのが結成動機だったというのも頷ける逸品です。
WONKの鍵盤奏者としても知られる江﨑文武のファーストアルバム『はじまりの夜』(2023年)は、谷崎潤一郎の随筆「陰影礼賛」に着想を得た美しい作品で、まさに陰影ポストクラシカルとでもいうべき同名の曲も収録。
そしてアンビエント/電子音楽シーンで異彩を放つ冥丁は、小泉八雲の世界観を音楽にしたというアルバム『怪談』(2018年)でデビュー。目下の最新アルバム『古風III』(2023年)も、夏目漱石にインスパイアされた“夢十夜 ”や、そのままの曲名の“江戸川乱歩”、さらに谷崎潤一郎の処女作からヒントを得たであろう“刺青”などを収録した、仄暗い和風情緒漂うエレクトロニカに仕上がっています。

余談ながら僕もこの2者に劣らぬタニザキストなので、もし自分で文学モチーフの曲を作るならば谷崎の「少年」か「蘆刈」がいいかもなと妄想しています。まあ楽器も作曲も出来ないんですけど。
PROFILE: 北爪啓之
1972年生まれ。1999年にタワーレコード入社、2020年に退社するまで洋楽バイヤーとして、主にリイシューやはじっこの方のロックを担当。2016年、渋谷店内にオープンしたショップインショップ〈パイドパイパーハウス〉の立ち上げ時から運営スタッフとして従事。またbounce誌ではレビュー執筆のほか、〈ロック!年の差なんて〉〈ろっくおん!〉などの長期連載に携わった。現在は地元の群馬と東京を行ったり来たりしつつ、音楽ライターとして活動している。NHKラジオ第一「ふんわり」木曜日の構成スタッフ。

