
共通するのは新しいことに躊躇なく挑戦するマインド
――そんな出会いから交流を深めていった中で、それぞれの音楽に対してはどんな印象をお持ちですか?
北村「沙良ちゃんのことは最初ピアニストとして知ったんですけど、ソロプロジェクトの曲を聴いたら、ピアニストの引き出しだけじゃないというか、メロディアスなフレーズもたくさんあるし、曲の展開も面白いし、トラックの構成もすごくかっこよくて。自分はトラックメイクを中心に作曲をしているので、自分とも繋がる部分を感じました」
――ダンスミュージックを作るようになった直接のきっかけはエマ・ジーン・サックレイで、ジャンルやシーンというよりも、その人のやりたいことをやってる感じに惹かれたという話を前にしてくれましたけど、きっと和久井さんもそういう存在だったのかなと。
北村「本当にそうですね。やりたいことがちゃんとあって、それを自分の表現として直に出せている感じもするし、活動スタイルもすごくかっこいい。ピアニストもサポートもやりつつ、自分のソロプロジェクトでもコンスタントに作品を出しているのはすごく憧れます」
和久井「私が蕗ちゃんの音楽をちゃんとライブで体験したのが晴れ豆(代官山・晴れたら空に豆まいて)で共演したときだったんですけど、弾き語りでやるのかなと思ってたら、ライブループを使ったり、DJみたいなことをやったりしていて、すごく立体的な音楽を作る子だなと思いました。しかも、歌も伸びやかで綺麗だし、ピアノもきらびやかに弾いてて、初めて見たときから吸い込まれる感覚がありましたね。
そこから何回か共演してるんですけど、そのたびに新しい要素が加わって、最近だとフルートを吹いたりもしていて。それこそこの前遊んだときに、〈吹奏楽とかでやってたの?〉って聞いたら、〈最近買った〉って言ってて、〈マジか〉みたいな(笑)。自分が興味のあることとか、やってみたいことをすぐ行動に移せる、その行動力も素晴らしいと思うし、すごく尊敬してます」
北村「晴れ豆でのライブは2023年の8月なので、フジロックの〈ROOKIE A GO-GO〉に出た後で、あのセットにちょっと慣れてきたときでした。そのとき沙良ちゃんはタップダンサーのSAROさんと梅井美咲ちゃんと、グランドピアノとヤマハのMOTIFを交互に弾くライブを全編即興でやってて。あの編成は毎回見るたびに影響されます」
――お互いに対する印象がお2人の共通点でもありますよね。ピアニストでもあるけどトラックメイクもする幅の広さは北村さんもそうだし、好奇心でいろんなことにチャレンジしていくのは和久井さんもそうですし。
北村「そうかもしれませんね。沙良ちゃんは今までバンドでやることが多かったと思うんですけど、最近はアンビエントとかダンスミュージックとかのトラックメイクにも重点を置いていると聞いて、どんどん新しいフェーズにも挑戦していってるのはすごいなと思うし、私も何かやりたくなったらやっちゃうタイプかなと思います」
和久井「確かに、やりたいときとかできるときにやるっていうマインドは似てるのかもしれないですね」

ピアノ、作曲、トラックメイクを駆使する作家
――普段から音楽の話はよくしてるんですか?
和久井「最近何聴いてる?みたいな話は結構するよね」
北村「この間教えてもらったのがMJコールで、彼はジョルジャ・スミスのリミックスをしてたりして、この人なんだと思って。トラックメイカーだと思ってたんですけど、ピアノ演奏だけのアルバムも出してたり、この人もいろんなことができる人なんだなと思いました」
――海外では演奏家でもありつつ、自分でトラックも作る人がある時期から増えて、日本でも増えてきたとは思うけど、まだそんなに多くはないと思いますね。その要素を併せ持ったお2人が作る音楽はやっぱり面白いなと思うし、そこが共通点でもある気がします。でもあえて違いを言うとしたら、和久井さんは作曲が軸にある印象で、北村さんの方がよりシンガーソングライター的というか、歌が軸にある印象です。
和久井「私はもともとピアノだけを弾く人になりたいわけじゃなくて、作曲家という夢が中学生ぐらいからずっとあって、ピアノは〈自分で弾けるから弾いてます〉みたいな感じ。なので、軸にあるのはピアノプレイじゃなくて、〈いろんな作品を作ってみたい〉という気持ちですね。だからピアノがない管弦だけの曲も作ってみたいし」
北村「私は出発点が作曲ではなかったので、トラックメイクをするようになってから、楽曲の構成とか、それこそ管弦楽器の組み立て方とかを意識するようになったんです。沙良ちゃんの弦が入ってる曲を聴いたりすると、トラックメイクとはまた違った五線譜の動きがあって、こういうのは作曲家を志してないとなかなか難しいことなんだろうなと思いつつ、影響は受けますね。自分は耳で聴いて、どういう響きかでしか楽曲を捉えられていないので、作曲家としての知識も今後勉強できたらいいなと思います」
和久井「作曲とトラックメイクはまた違うんだよね。私はもともと和声学を勉強してて、〈ここのラの音とここのラの音が繋がって違うコードになる〉とか、そういう五線譜を横に読むことを先に学んでしまったがゆえの拘束もちょっと自分の中にあって、それがなくなったらもっと突拍子のないものが生まれるんじゃないかと思うこともありました。
でも蕗ちゃんの曲もめっちゃコードが面白くて……ちゃんとしてるんですよ(笑)。すごく難しいことを自然にできてる感じがして、それが本当にすごい。勉強してきた身としても、そこがちゃんと解決できてるのはすごいなと思うし、気づきがたくさんあるんです」
北村「沙良ちゃんの曲は理論の裏付けもあると思うけど、ホントに突拍子もないことが起こるというか(笑)。〈なんでここでこのリズムが入るの?〉〈変拍子に聴こえるけど、ちゃんと通常の拍子の中でやってる〉みたいなのが面白いし、めっちゃ好きで。それは多分理論を勉強してたからというよりも、自分がどういう音を出したいかがちゃんとあるからだと思うので、そういうところもめっちゃ好きですね」