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母に「あなたの音楽は難しい」と言われたことが悔しかった

――ちょうどウィントン・マルサリスがコロムビアから送り出されたりし、同社がもう一度正調のジャズを出すという流れの中で、小曽根さんが華々しくデビューしたという印象をぼくは持っています。

「1枚目はどうやってピーターソンっぽさを封印して、自分のスタイルを作るかに苦心しましたね。だから、あの時に初めてクラシックをむさぼるように聴きました。チック(・コリア)から〈自分のスタイルを作るにはコンポーズだ〉と言われ、スタンダードも一切聴かないようにしました」

――それこそクインシーは作編曲で大成した方ですし、クインシーはもしかすると小曽根さんの中にある作編曲のなんらかの利に着目し、声をかけたのかもしれませんね。

「クインシーは自分のレーベル〈クエスト〉の第1号アーティストとして、ぼくを出そうと言ってくれました。彼がちょうどマイケル・ジャクソンの『Thriller』をリリースして超多忙だったのですが、〈俺はジャズのレーベルを創ろうと思っているので、お前がその第1号にならないか〉っていう、とんでもなく光栄な話だったんです。

ただ、クインシー自身は忙しくて携われなかったので、彼が担当として付けたプロデューサーのディレクションがぼくがやりたかった方向とちょっと違ったんです。ジャズ界においては有り得ないほどの大きなバジェットを制作にかけると言ってくれたんですけど、ジャズのアルバムではそれをリクープできるはずがない。当時のマネージャーも〈そんなのヘルシーじゃない〉と言いましたね。そんなときに、コロムビアからデビューの話があったわけです」

――ソニーから4作品を出したあと、ビクターに移って分かりやすい作品群を出しましたよね。

「母親から〈あなたの音楽は難しくて分からない〉と、ずっと言われていたんです。それが悔しかったんです。そもそもぼくは(ジョン・コル)トレーンもマイルス(・デイヴィス)も別に興味がなかったし、ビル・エヴァンスさえそうだった。興味があったのはピーターソンやヘンリー・マンシーニ。あと、タワー・オブ・パワーやアース・ウィンド&ファイアーが大好きだったのに、バークリーに行って面倒くさい難曲をやらされて(笑)、非常に頭でっかちになってはいないかと思ったんですよ。

そんなおり、宮崎でぼくがソロで弾いた際にMALTAさんも出ていて、彼が大衆を魅了する様に〈これは素晴らしい!〉と思ったんです。で、一緒にやらないかと誘われて、(彼が所属していた)ビクターから出すことになりました」

――同じバークリーの先輩ですもんね。

「そう。当時は電気(楽器)もやったことなかったし、チックが〈シンセも弾いた方がいい〉と言うから、〈じゃあ一回触ってみよう〉といろいろやったわけです。ポンタさん(村上秀一)ら日本のミュージシャンと演奏できたのもよかったです」

 

〈楽譜通りの完璧な演奏〉と正反対の音楽をやりたかった

――1994年以降は現在までずっとポリグラム/ユニバーサル系列から作品をリリースし、No Name Horsesのアルバムも数を重ねています。ビッグバンドがいろいろあるなか、自分なりのビッグバンドをやろうとなった際には、どんな方向性を取りたいと思ったのでしょう。

「それは、(バークリー音楽大学作編曲科の恩師である)ハーブ・ポメロイ先生に言われたことそのままなんです。一番大切なのはメンバーが自由に演奏できて、メンバーに〈もっと関わってこの音楽を作っていきたい〉と思わせる楽譜を書くこと。だから、〈楽譜通りに完璧にこれを演奏してください〉というものと正反対の音楽をやりたかったんです。

なぜなら、その模範には(デューク・)エリントンの音楽があって、もうちょっと近いところで言うとサドメル(サド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラ)がいる。サドメルの『Consummation』というアルバムは、ビッグバンドなのにまるで奔放なセッションバンドが演奏している、みたいなところがあるじゃないですか」

――そのように、ありったけの自由を持ち込みたいと思って楽譜を仕上げるわけですね。

「例えば、自分のところに楽譜が来た時にピアニストって管楽器の演奏の間に何か音を入れたくなることがよくあります。だから、管楽器の合間にサックスの合いの手とかを書く人もいますが、そうせずに余白を作っておけば、誰かが何かおかずを入れたり、リズムセクションとの交流が生まれたりもする。そういう余白を作っておき、なんならトランペットも必ず決まった吹き方をするのではなくて、〈このメロディを今日はこんなふうに吹いたら?〉と提案できるものを出します。例えば、エリックのリードを聴いて全員が〈今日はこんなふうに吹こう〉となる、みたいな。そういう自由さをビッグバンドで作りたいというのが、最初から求めたことでした。

ですから、もうギグともなると4拍子の曲なのに3拍子でイントロを始めるとか悪戯もしますね(笑)。とにかく、お題というか、叩き台となるものを楽譜として渡しているだけで、それをどう吹いてもよくて、ただかっこよくはしてね、とは思っています。

ただ一つ付け加えたいのは、自由とはいえ、全てその楽譜に書かれている物語があって、それをベースにメンバーそれぞれが自由に表現するということであって、ただ何でもかんでも自由に吹くということではないです。そこにはそれぞれのメンバーの崇高な音楽性が求められるわけです」