ふたりの俊英ミュージシャンを迎えた小曽根真の新トリオ
溢れ出る無限の可能性
小曽根真が新たなトリオTrinfinityを結成。その1stアルバムを手にした僕は目を見張った。小曽根のトリオといえば、ジェームス・ジーナス&クラレンス・ペンを擁する小曽根真THE TRIO、そしてクリスチャン・マクブライド&ジェフ“テイン”ワッツと組んだスーパー・トリオ。どちらも海外ビッグ・アーティストの顔ぶれが並ぶが、新トリオに迎えられたのは、小曽根が俳優・神野三鈴とともに主宰する次世代音楽家のためのプロジェクト〈From OZONE till Dawn〉に所属する小川晋平（ベース）&きたいくにと（ドラムス）という若者ふたりだ。
「（きたい）くにととは、彼が学生の頃からの付き合いです。ジャズ、ラテンだけでなくクラシック音楽のオーケストラとも演奏できる高い技量の持ち主。（小川）晋平は、2021年夏に都内のジャズクラブで聴いたのが初めて。その時の演奏が素晴らしくて声を掛けたのが知り合ったきっかけです。それぞれと一緒に演奏することはありましたが、最初に3人が揃ったのは2022年夏のコンサート。それ以来、演奏するたびに、僕の感じる手応えが大きくなってきて。これはしっかりとした形にしようと思ったんです。トリオ結成に踏み切ったのは、ふたりが持つ才能もさることながら、彼らに強い覚悟を感じ取ったから。僕の書く曲って、一筋縄でいかないものがぎっしり詰まっているし、演奏に際しても、音色やノリなどの微妙な変化を感じ取る感性が要求されるものが多い。自分が変わるという意識がなければ対応できないんです。でも、たとえば“スナップショット”の演奏なんて、ふたりとも素晴らしいですよ。僕のピアノのちょっとした変化を聴き取って、彼ら独自のアイディアを投げ返しています。だからこそ僕のピアノも前に進んでいける。これこそがジャズの醍醐味です」
小川&きたいとともに目を引くのが、パキート・デリベラ（クラリネット）、ダニー・マッキャスリン（テナー・サックス）、佐々木梨子（アルト・サックス）、二階堂貴文（パーカッション）という豪華ゲスト陣。ここにも二階堂、佐々木という若手が迎えられている。
「（佐々木）梨子の演奏を初めて聴いたのは2023年春。彼女は今バークリー音大に通い始めたばかりですが、その時はまだ高校卒業したてのホヤホヤ。それなのに、ヴェテラン顔負けの堂々たるプレイで驚きました。今回はニューヨーク（NY）録音だったので、彼女にも参加してみない?と声をかけました。ニカちゃん（二階堂貴文）も現在NYで大人気のパーカッショニスト。それにしても最近の若手の活躍は本当に目覚ましいですね。僕は今年もう一度アメリカに渡ろうと思っていて。そのきっかけのひとつは、2023年にやったブランフォード（・マルサリス）たちとのコンサートで大きな刺激を受けたからなのですが、もうひとつのきっかけになっているのが若手ミュージシャンの活躍。NYのあちこちでイキのいいミュージシャン達が斬新で面白い音楽をやっています。それを肌で感じ取ってみたい。思えば、この20年間はジャズとクラシック音楽の演奏というアウトプットに打ち込んできました。今、自分に対して強く感じているのはインプットの必要性。NYに腰を落ち着けて、ジャズやブルース、新しい音楽を思いっきり吸収する音楽三昧の生活。それを今後の僕の音楽にふんだんに盛り込んでみようと思っています」
そうした小曽根の熱いジャズ愛が込められた音楽を、優しげなバラード“オリジン・オブ・ザ・スターズ”がそっと締め括ってくれるのもこのアルバムの嬉しい点だ。
「この曲はアルバムのエンドロール的存在であると同時に、友人の星野源さんへの感謝を込めた作品。実は数年前、相棒の（神野）三鈴に大病が見つかって。どうしたらいいか分からなかった時に、同じ病気を経験したことのある彼が、全国ツアーの真っ最中だったにもかかわらず、病院、執刀医、看護師の手配まですべて面倒を見てくださったんです。だからタイトルは彼の名前をそのまま英語に（笑）。彼に限らず、僕たちはいろんな人たちのおかげで生きています。そんな感謝の気持ちが伝わればいいなと願っています」
小曽根真（Makoto Ozone）
1983年、バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム『OZONE』で全世界デビュー。以来、ソロ・ライブをはじめゲイリー・バートン、ブランフォード・マルサリス、パキート・デリベラなど世界的なトッププレイヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド〈No Name Horses〉を率いてのツアーなど、ジャズの最前線で活躍。
LIVE INFORMATION
小曽根真 Trinfinity アルバム発売記念ライヴ
2024年4月1日（月）～4日（木）東京・ブルーノート東京［ゲスト：ダニー・マッキャスリン］
2024年4月15日（月）大阪・ビルボードライブ大阪
2024年5月18日（土）、19日（日）長野・八ヶ岳高原音楽堂
2024年5月24日（金）福岡・電気ビルみらいホール
https://www.makotoozone.com/
