
生まれ変わったNo Name Horsesの力強い音
――そうやって今まで着実に活動してきて、これはもしかすると転機だったと思えることはありますか。
「『Until We Vanish 15x15』(2019年)ではロックもやったんですが、そのツアーが(パンデミックで)飛んだのは結構大きかったですね。あのツアーができなかったことで、次に行ききれなかったんです。
あとは、やっぱり確実にフィジカルな老いはやって来ます。それで、みんなに〈自分でテクニックの衰えを感じることがあるか?〉と聞きました。ぼくはクラシックをやらせてもらっているおかげでなんとか維持できているけど、ジャズの場合はそれができないから、もしも自分が前にできたことが何故か今はそれができないと思うようなことがあったら、ちゃんとそれと向き合ってほしい、と。とにかく、〈ベテランと言われるバンドにだけはなりたくない〉と言いましたね」
――そして、新作『Day 1』には松井秀太郎(トランペット)、陸悠(テナーサックス/フルート)、小川晋平(ダブルベース)という若い3人のメンバーが新たに加わりました。
「この若い、また上手い3人が入ったことでバンドが活気づきました。それこそNo Name Horsesがペコさんのツアーで最初にライブに出た時は〈もういい加減にしろ〉っていうぐらいみんな凄いエネルギーで吹いていたのですが、今またそういう状況になっていて、音を聴くとすごく勢いがあるんです。メンバーを代えるのは苦渋の決断ではありましたが、生まれ変わったNo Name Horsesの音が出ていると思いますね。
エリックも彼がバンド全体を引っ張らなきゃいけないシーンがいっぱいあって辛い時期があったそうなんです。でも、今はもう引っ張るどころか、なんならトランペット隊が彼を後ろから突き上げるような勢いで来るので、今はすごく楽しいそうです。
そういう意味では逆に全員ちょっと力が抜けて、そのおかげで余計にパワーが出ている感じもありますね。本当に、そこに年齢差はないですね」
――松井さんなんて……。
「まだ25歳。ぼくら、その倍以上ですからね(笑)」
表題曲“Day 1”の無謀な構成
――『Day 1』を聴いて、もう活力はあるし起伏には富んでいるし、これは本当に20年目を迎える新たな1ページを飾るアルバムとして、めちゃくちゃふさわしいと思いました。とくに、1曲目のタイトルトラックの勢いある変幻自在さには圧倒されました。
「フォーマットはリズムチェンジで、完全に循環(コード)の曲なんです。今や、循環の曲をオリジナルで書くコンポーザーなんて多分いないんじゃないかな。
最初はビッグバンドの王道のスタイルで行くんだけど、その後にソロが2回出てきてから、急に曲想が変わっていきます。そこから実はNo Name Horsesの昔の曲が3曲メドレーになって入っているんですよね。1つ目は三木俊雄の“ミッドナイト・コール”で、その次に英二郎の“イントゥ・ザ・スカイ”のメロディが出てきて、その後に“ラ・ベルダ・コン・ロス・カバジョス”というエリックの曲が出てくる。そして、ドラムソロになり、最後はまたリズムチェンジになって終わるという、相当無謀な構成を取っています(笑)。3曲を繋げるのにものすごく苦労したんですよ。全然違う曲なので、とても思案しました」
――驚きしかないです。
「ラミネートチューブの歯磨き粉の最後を絞り出すかのように、何十回と書き直しました(笑)。だから、あの曲だけは、みんなに〈ちょっと待ってくれ〉とお願いしながら書き直していました」
――これはやっぱりオープナーにふさわしい曲です。本当に半端じゃない情報量に満ちていて、スピーカーが喜んでいると思いました。
「マスタリングをしたグレッグ・カルビ(おそらく世界一高い需要を誇る、在ニューヨークの著名エンジニア)がすごく喜んでました。バンドの音だけでこれほどちゃんとバランスが取れている作品をマスタリングするのは久しぶりだ、と。ひどい録音を持ってこられて〈マスタリングで何とかしてくれ〉と言われることが多くてゲンナリするんだけど、自分が何度も聴きたいアルバムでうれしい、と言っていましたね」