
会社員と同じバイタリティで音楽を作るなら年1枚じゃ少ない
――家主の楽曲にも素朴に感じる疑問ですが、曲のアイデアを思いついてから完成までは一気に行けるタイプなんですか?
田中「最近はちょっと腰が重くなってきた感じはあります。今まで作ってきた曲がある程度溜まってきて、過去にやった手法や手グセみたいなものがどうしても出てきちゃうことがあるんです。〈これは昔やったな〉みたいな、(既発曲と)被るか被らないかの線引きは最近ちょっと足枷になってきてるかな。でも、曲の土台が出来てしまえば、そこからかたちになるまではめちゃくちゃ速いと思います」
――なかなか今ここまでのペースで作品を出す人はいない。家主とソロで毎年かわりばんこにアルバムを出しているわけで、しかも最新作が2枚組。言い方は変かもしれないけど、アウトサイダーミュージックレベルの仕事中毒というか。
田中「まあ、アウトサイダーミュージックであるという自覚はしてます(笑)。でも、アルバムや曲を出すことって音楽を作る側からしたら当然の行為とも思うんですよ。最近って、アルバムやMV公開を、すごくもったいぶって発表するじゃないですか。〈重大告知8時より!〉みたいなの。そういうのはちょっとキモイなと思ってます(笑)。少なくとも自分はできない。〈あなたの得意なことってそれ(音楽)なんだから、もっとポンポン曲出せば? プロなんでしょ?〉という気持ちもある。あくまで自分はアマチュアという立場から(音源のリリースなんて)あまりたいしたことじゃないと自覚して出したいんです。ライフワークみたいなものなので。
そう思うのは、自分がかつてサラリーマンとして働いていたからかもしれない。自分が9時から5時で音楽を作っているかと言われるとそういうわけでもない。どう考えても社会で生きてる人のほうが大変だとわかるんで、そこと比較すると自分みたいに中途半端に音楽をやってる人の仕事量ってすごく少ないんじゃないかと。サラリーマンをやってる人と同じくらいのバイタリティで音楽を作るとしたら、年1枚でも少ない気がする。むしろ2枚くらい作らなきゃダメなんじゃないかと思います。何をシングル1枚くらいでもったいつけてるんだと(笑)。自分からそっちの道を選んだのに〈ツライ〉みたいなこと言ってる人を見ると、なんだかな~と正直思っちゃいます」
――今言ってることと通じてるかもしれないですけど、セカンド以降の田中ヤコブのソロ作って、ジャケット写真も、日常を切り取ったような、というか、日常で誰も気に留めないような光景を使ってますよね。
田中「ああ、そうですね」
――そこに特別な意味を深読みしたがる人もいるだろうけど、むしろ作ってる側の意図としては、流れている時間そのものに意味があるようなことなのかと。
田中「まさにそうです。作為的なものがゼロになるようなアートワークというか。今回の写真はセカンドのときも撮ってくれた今井駿介くんなんですが、彼ともそういう話をすごくしていて。彼自身も、バッキバキにキメた写真はわざとらしくて嫌いだそうです。リスナーとしてもそういう目線を持っている人なので、彼と一緒に制作するのは気が楽です。アー写もいつも彼に撮ってもらっていて、作為の無さだったり、あるがままに撮ってくれたりするところが好きですね」
Think Yourself, please
――アルバムタイトル『ただようだけ』も、そういう感覚に連なる?
田中「タイトルは歌詞のなかに出てくる言葉だったりするんですが、これは自分を含むリスナーへの説教というか戒めみたいな感じもあって……」
――説教……。確かに、フィジカルのCDを手にすると、オビには〈Think Yourself, please〉と英文のキャッチが添えられていますよね。〈自分で考えてください〉って意味です。
田中「何かを鑑賞するとき、最近って答えが出てるじゃないですか? YouTubeにある『HUNTER×HUNTER』の解説とか(笑)。まあ自分もわりとそういうのを見ちゃうタイプなんですけど、何かを鑑賞するときはできるだけ〈自分はこう思った〉という、他人を介さない自身の感想を持つことが大事だと思っています。じゃないと、マジで人間がダメになっていくんじゃないかという気持ちがあって。〈私はこう思う〉をリスナー視点でもっと持っていいと思うし、〈鑑賞に正しい答えがある〉みたいな同調圧力からもっと自由になっていいんじゃないかなと。
最近は作り手としても〈自分はこれが好きだからやるんじゃい!〉みたいな気持ちを持てるようになったんですけど、そういったことを直接言うと本当に説教になっちゃうので英語のタイトルに含めたというか。もっと常識や世間のルールに縛られず、自発的に動いたり考えたりしてもいいんじゃないの?、という自分の本意みたいなものは、おそらく作品だけでは伝わらないだろうなと思ってます(笑)。
タイトルに関していうと、こじつけっぽいですが、こういうこともありました。今年、船に乗ったんですけど、船って乗り込んだときは動いてなくて漂ってるだけですよね。でも、その状態で結構船酔いしてしまうんです。でも、動き出すと大丈夫になる。つまり、漂うだけだと〈ただ酔うだけ〉で、だったら動いてる状態のほうが逆に楽。何かしら創作したり、自発的に動いたりしてるほうが結局は楽なんだなということにあらためて気づいたこともタイトルを付ける上で象徴的な出来事でした」