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独自の世界観とクセツヨな歌唱スタイルが完成したソロ活動

本格的なソロ活動がスタートするのは1975年に入ってから。記念すべきファーストアルバム『惚れた』(1975年)には、阿久悠が作詞した“お前に惚れた”や〈アキラ〉こと水谷豊との掛け合いも楽しい“兄貴のブギ”など、「前略おふくろ様」や「傷だらけの天使」といったドラマのキャラ性を敷衍させたナンバーがひしめき合っており、河島英五作の“酒と泪と男と女”など歌謡曲的な色の濃さも特徴的だったりして、いささか人気役者の作った音盤といった印象がなきにしもあらず。

萩原健一 『惚れた』 Elektra(1975)

しかし、彼が歌手として独自の世界観を発信し始めるのにそこからさほど時間はかからなかった。大野克夫や井上堯之らを擁するバンド、Nadjaを従えて、ローリング・ストーンズの作るバラードに通じるロマティシズムが滲む“男の風景”などを披露する『Nadja-愛の世界-』(1977年)、極上のメロウグルーヴ“蜃気楼”など佳曲が揃った『Nadja II-男と女-』(1978年)、キャリアを代表する1曲となる“大阪で生まれた女”を含む『Nadja3-Angel gate-』(1979年)など充実作を次々に発表、ブルースやロックやAORなどが程よくミックスされた芳醇な音世界を展開していく。

萩原健一 『Nadja-愛の世界-』 Bourbon(1977)

萩原健一 『Nadja II-男と女-』 ミノルフォン(1978)

萩原健一 『Nadja3-Angel gate-』 Bourbon(1979)

ボーカル表現の面において顕著だったのは、とんねるずの石橋貴明がかつてよく真似していたような、言葉を投げつけるようにして歌うクセツヨなスタイルがこの時点においてガッチリ完成。日本のジョン・ライドンとも言うべきエキセントリック性を前面に押し出しながら、役者道とも地続きの物語性に富んだパフォーマンスを繰り広げるようになっていったのである。

 

稀代の名パフォーマーとしてのカリスマ性が際立つライブ盤『熱狂雷舞』

そんな彼特有の妖しさや狂気が見事パッケージされている好作品として、柳ジョージ&レイニーウッドがバックを担当したライブアルバム『熱狂雷舞』(1979年)を挙げたい。何かに衝き動かされるようにしてワイルドに暴れまわっていたかと思えば、引きの演技でもって辺りの空気をガラリと変えてしまうような特別な力を発揮したりするここでのショーケン。そういったさまざまな落差が育む奥行きのあるドラマにただただ魅入られずにいられなくなるこのライブ盤は、彼なりの美学の結晶であると称するに相応しい(自身主演の同名ドラマのテーマ曲をカバーした“祭ばやしが聞こえる”とPYGの“自由に歩いて愛して”があまりにグレイトすぎる!)。

萩原健一 『熱狂雷舞』 Bourbon(1979)

同作をはじめ、稀代の名パフォーマーである彼にはライブの名盤が多くあり、フラワー・トラヴェリン・バンドのメンバーらで形成されたドンファン・ロックンロール・バンドの演奏もひたすら熱い『DONJUAN LIVE』(1980年)や、インドで行なわれたチャリティーコンサートと武道館公演を収録した『SHANTI SHANTI LIVE』(1983年)など彼のカリスマ性が強烈に際立つ作品が数多く発表されているので、未体験の方はそちら方面を入り口に選ぶのが適切かと思われる。

萩原健一 『DONJUAN LIVE』 Bourbon(1980)

萩原健一 『SHANTI SHANTI LIVE』 Bourbon(1983)

 

晩年の作品までオリジナルアルバムも秀逸

とか言いつつ、オリジナルアルバムにも見逃せない作品が揃っている。アルコールソングの決定版“ぐでんぐでん”や映画「竜二」に主題歌として用いられた“ララバイ”を収めた『DONJUAN』(1980年)、ジャパニーズレゲエファンからの人気も高い『D’ERLANGER』(1982年)、私小説的な楽曲で占められた『THANK YOU MY DEAR FRIENDS』(1984年)、歌謡ロックの金字塔“愚か者よ”を中心に置く『Straight Light』(1987年)、名バンド、アンドレ・マルローとのコンビネーションが完成を見た『Shining With You』(1988年)などどれも秀逸な作品ばかり。

萩原健一 『DONJUAN』 Bourbon(1980)

萩原健一 『D’ERLANGER』 Bourbon(1982)

萩原健一 『THANK YOU MY DEAR FRIENDS』 Bourbon(1984)

萩原健一 『Straight Light』 Moon(1987)

萩原健一 『Shining With You』 Moon(1988)

また、スタジオライブ一発録音によるベストアルバム『LAST DANCE』(2017年)や、生前最後のライブを収めた『Kenichi Hagiwara Final Live ~Forever Shoken Train~ @Motion Blue yokohama』(2019年)など晩年にリリースされた作品だってクオリティーは相当高い。

萩原健一 『Kenichi Hagiwara Final Live~Forever Shoken Train~ @Motion Blue yokohama』 Shoken Records(2019)

ショーケンの歌はソウルフルなのか?と問われたら、正直言うと返答に窮するところがあったりする。あの凄まじさを言い表すのにその形容はあまりに便宜的すぎるような感じがしてちょっと気が引けてしまうのだ。かといって、フリーキーな表現を持ち味とする歌手だなんて括ってしまうような短絡的な態度はけっして取りたくないし、結局いつだって〈ショーケンはショーケンなんである〉という至極当たり前な言説に落ち着いてしまいがちだ。でもやっぱそれじゃあいけないよな、とつくづく考えてしまう2025年の年頭。そいつをなんとか解消すべくこれから当分の間、彼の歌世界と改めてじっくり対峙せねば。

 


PROFILE:桑原シロー
1970年、三重県尾鷲市生まれ。音楽ライター。2000年代半ば、タワーレコードが発行するフリーペーパー「bounce」の編集業務に携わり、退社後、フリーランスの音楽ライターとして活動。雑誌/ウェブを中心に記事を執筆。インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行なう。ロック、ジャズ、歌謡曲など幅広い音楽ジャンルに精通し、映画、芸能、お笑いの分野にも活動範囲を広げている。2014年から、日本のディープサウス、熊野在住の異能のギタリストのマネージャーも務めている。