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佐野元春クラシックスの未来に向けた再定義

――そのピークからさらに10年を経て、THE COYOTE BANDがTHE COYOTE BAND以前の佐野元春の名曲を録音したアルバムが今回の『HAYABUSA JET I』。THE COYOTE GRAND ROCKESTRA名義でのライブ盤などはあったものの、THE COYOTE BANDによって昔の曲をスタジオ録音した作品は初めてです。なぜこのタイミングで?

「今が一番いい時だからです。THE COYOTE BANDのサウンドと佐野元春クラシックス、その境界線がいよいよなくなってきているな、と感じている。以前の曲も今の曲もTHE COYOTE BANDがいま鳴らすものとして、すべてが必然のある曲となってきた。これが僕にとってはいちばん大きな変化です」

――『HAYABUSA JET I』のコンセプトを聞いたとき、2011年の『月と専制君主』や2018年の『自由の岸辺』と同じセルフカバーシリーズに連なる作品なのかなと想像したんです。でも実際は……。

「完全に新しいアルバムになった。以前のアルバム『月と専制君主』(2011年)と『自由の岸辺』(2018年)は、The Hobo King Bandとのセッションだった。そこでのテーマは佐野元春クラシックスの〈再解釈〉。ニューオリンズやブルースといった音楽フォーマットに置き換えてやってみた。

一方、今回THE COYOTE BANDとやったのは、佐野元春クラシックスの〈再定義〉です。そこには大きな違いがあります。〈再定義〉は未来に向かっている。そして新しい世代のリスナーと繋がりを求めている。もちろん古いファンにも楽しんでもらえるものでなければ意味がないですから、そこをめざしました」

――再解釈が以前の解釈ありきのものであるのに対し、再定義はより新しいものに作り変えるという更新のニュアンスが強いように感じます。

「そうだね。クラシックスをいまに鳴らそうというならリリックも少し変えたほうがいい、もちろんグルーヴも変えたほうがいい、僕の唄い方も変えたほうがいい、ということになった。中にはタイトルを変えたものもある(笑)」

――ちなみに〈HAYABUSA JET〉というのは佐野元春のアバターだそうですね。

「ファンは知っているかもしれないけど、以前、佐野元春って名前に飽きちゃって、HAYABUSA JET & THE COYOTE BANDとして売り出そうかと提案したんです。でも周囲からは猛反対された(笑)。ただ年を追うごとに僕のなかでHAYABUSA JETという存在が膨れ上がっていったんです。なので改名はダメでもアバターだったらいいだろうということで今回、アルバムのタイトルとして『HAYABUSA JET I』に落ちつきました」

 

“Youngbloods”のヴィンテージモダンなサウンド

――つまり新作は〈HAYABUSA JETのファーストアルバム〉という意識でもあると。そんな作品の1曲目を飾ったのが“Youngbloods” 。オリジナルは1986年作『Café Bohemia』に収録されたモッズソウルな楽曲です。

「80年代オリジナルの“ヤングブラッズ”、そして2024年ニューレコーディングの“Youngbloods”。この2つに共通してるのは、基本的にソウルアンサンブルだということ。新録ではテンポを上げてより現代的なグルーヴで演ってみた」

――ニューバージョンの“Youngbloods”は演奏がよりシャープになっています。さらに、1984年のオリジナル版からのストリングスとハープをサンプリングして重ねているそうですね。

「そうだね。再定義するときに、いちばん気をつけたのは、オリジナル感をどれくらい残すかなんです。そこで思いついたのが、オリジナルテープからのサンプリングだった。“Youngbloods”だけではなく、他の曲でもその手法を当てました」

――やはり他の楽曲でも、オリジナル版からのサンプリングが使われているんですね。アルバムを聴いて、そうじゃないかと想像していました。

「時代の空気感のなかで響いた音っていうのは、やはりその時代のものであり、再現しようとすると難しい。だったら悩むことはなく、その当時の音をサンプリングして使ってみようという発想だ」

――若いリスナーも現代の音と80~90年代の音のケミストリーをおもしろがると思います。

「そうだといいな。ヴィンテージな音といまのTHE COYOTE BANDのサウンドをミックスすることでユニークなサウンドになったと思う。なんていうか、ヴィンテージモダンな感覚。それはレトロフューチャーって言葉とも繋がっていて。そして、若いリスナーがそのレトロフューチャーな感覚をおもしろがってくれたらいいと思う。たとえば、荒廃した未来に、THE COYOTE BANDと僕……じゃないや、HAYABUSA JETが、佐野元春の80年代の曲“ガラスのジェネレーション”を唄っている――そういう風景」