Page 2 / 4 1ページ目から読む

2世代にわたる片倉真由子と山口真文の絆

――山口さんと片倉さんの出会いについて教えていただけますか?

山口「60年ほど前、彼女が形になるずっと前に(笑)。実は彼女のお母さん(ピアニストの片倉加寿子)と僕が同じ大学(慶應義塾大学)に通っていて、知り合いだったんです。学生時代、彼女はビッグバンドの〈ライト・ミュージック・ソサイエティ〉とハワイアンを脱皮してセルジオ・メンデスをやっていた〈カルア〉というサークルに、僕は〈KMP〉というビッグバンドのサークルにいました。当時、ジャズ系のピアノを弾く女性はほとんどいなかったので、彼女は有名だったんです」

――片倉さんが、〈お母さんの知り合いがサックス奏者の山口真文さんだった〉と認識したのはいつ頃ですか?

片倉真由子「母のピアノが置いてある部屋に、2人の写真が飾ってあったんですが、そのときは誰かわからなくて。その後、私がアメリカ(バークリー音楽大学とジュリアード音楽院に留学)から帰国して東京のジャズクラブに出るというときに、母が〈真文さんに連絡してみたら?〉と言ってくれて、そこからの付き合いです。最初に共演したのはお茶ノ水のNARUでした」

山口「僕のライブに訪ねてきたんですよ。飛び入りでピアノを弾いてもらったら、とても良かったんです。一発で気に入り、すぐにレギュラーでお願いするようになりました」

――山口さんはNARUの初期(1969年開店)からご出演なさっていますね。

山口「僕にとってのホームみたいな場所です。今も定期的に演奏しています」

 

原曲通りである必要はない、リズムやコード進行があれば演奏できる

――今回のアルバム『Next Standards』は、サックスとピアノのデュオによる、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、マイルス・デイヴィス、トニー・ウィリアムスのオリジナル曲集です。いわゆる60年代マイルス・クインテット関連のナンバーですが、このアルバムのプランは、どのように生まれたのでしょうか?

山口「コンセプトは平野さんで、選曲は僕が行いました。選んだのはほとんどがリーダーカルテットのライブで演奏してきた楽曲です」

――そうしたナンバーを、デュオで録音するというのは?

片倉「とても幸せで貴重な機会でした。何年間も真文さんのバンドで演奏してきた大切な楽曲をデュオでレコーディングできたことは、自分にとっても大きな意味があったと思います」

――オープニングはショーター作“Nefertiti”です。僕の中では管楽器がメロディを繰り返して、ドラムが自在に演奏するマイルス・クインテットのイメージが強烈なのですが、このアルバムの“Nefertiti”は、本当に山口さんと片倉さんのおふたりが自在に解釈しているという感じです。

山口「たしかにマイルス・クインテットのオリジナル演奏は圧倒的で強力なイメージがあるけれど、ジャズにとって楽曲とはどのようにでも解釈できる対象だし、彼らの演奏だってたぶん〈たまたまああなっただけ〉でしょう。オリジナルのアレンジ(管楽器がアドリブをしない状態)でなければならないってことはないんです。実際リズムとメロディがあってコード進行があれば演奏もアドリブもできますからね」

――ピアニストの場合、例えばサックスが鳴っていないときはソロの状態になりますね。伴奏をこなしながら、ソリストとしての役割もおこない、空間を埋めていくというか。

片倉「そうですね。確かに相手がいるのといないのとではずいぶん違います。私にとってはソロになる瞬間の方がチャレンジングですね。真文さんが戻ってくるところに関しては、綿密な打ち合わせをしているわけではないんですが、真文さんは〈ここで入ってくる〉というタイミングが本当に絶妙で素晴らしいんです。このレコーディングに限らず、ライブでもいつもそうですが、このタイミングは誰もができることではありません」