THE AWAKENING OF ROCK!!
[ 緊急レポート ]ロックの覚醒
多様なタイムラインが交錯し、時間も空間も超えて世界中の音楽に触れやすくなった現在。ここでは、ボーダレスな楽しみ方を教えてくれるロック・バンドを紹介します!!
DINOSAUR PILE-UP
ギターの轟音と爽快なメロディーが歓迎され、名刺代わりとも言える日本限定のEP『Peninsula EP』のヒットと共にちょっとしたバズを巻き起こしたUKはリーズの3人組、ダイナソー・パイル・アップ(以下DPU)。さらに、今夏には〈SUMMER SONIC〉出演という形で早くも初来日が実現。日本ではいまだ知る人ぞ知る存在だったにもかかわらず、爆音を轟かせるパワフルなライヴ・パフォーマンスでフロアを大いに盛り上げた彼らの雄姿を目撃したという読者も少なくないはずだ。
そんなDPUが2013年のフル・アルバム『Nature Nurture』のジャパン・エディションでいよいよ本格的に日本上陸! ポスト・ハードコア~エモ・バンドのブランド・ニューと15,000人規模の会場をツアーしたUSに続いて、ここ日本でも大暴れを始めようとしている。
90年代への憧憬
〈グランジ・ポップの楽しさで溢れた傑作!!〉と絶賛したUKの老舗音楽誌NMEをはじめ、多くのメディアから注目されているDPUのスタートは2007年の暮れのこと。もともとはマザー・ヴァルパインというクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのようなタイプのバンドをやっていたマット・ビッグランド(ヴォーカル/ギター)のソロ・プロジェクトだった。自宅の地下室でレコーディングした曲をネットにアップしているうちに舞い込むようになったライヴの出演依頼に応えるため、マットはメンバーを集め、DPUとして本格的に活動を始めることになった。
ピクシーズやフィーダー、ケイジ・ジ・エレファントらとツアーしながらこれまでリリースしてきたアルバムは、2010年の『Growing Pains』と上述の『Nature Nurture』の2枚。メンバー・チェンジを経て、現在はマット、ジム・クラッチリー(ベース)、マイク・シールズ(ドラムス)の3人で活動しているが、2枚の作品は共にマルチ・プレイヤーであるマットがすべての楽器を演奏している。今回リリースされる『Nature Nurture Japan Edition』は、オリジナルの全11曲に、同じ時期にレコーディングした6曲を追加したものだ。
リスナーの気持ちをいきなりガシッと鷲掴みにするキャッチーな“Arizona Waiting”から始まる17曲を聴きながら連想するのは、ピクシーズ、ニルヴァーナ、フー・ファイターズ、ウィーザー……リスナーそれぞれに違うかもしれないけれど、そこから感じられるのは轟音で鳴るギターがロックの世界でいちばんカッコ良かった90年代への憧憬だ。加えてデフトーンズ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、ブラック・サバスらを聴きながらギターの弾き方を覚えたというマットは、当時UKで人気があったオアシスやブラーといったブリット・ポップには全然共感できなかったという90年代のUSグランジ/オルタナの申し子だ。じゃあ、DPUはそのリヴァイヴァリストなのかと言うと、そうとは言い切れないところがおもしろい。
歪ませたギターを掻き鳴らしたり、ヘヴィーなリフを炸裂させたりする一方で、メランコリーとポップな味わいが絶妙に入り混じる“Derail”“The Way We Came”“Start Again”といった曲からは、マットが影響を受けてきたUSのバンドにはない情緒が感じられる。子供の頃、母親が聴いていたアバ、キンクス、ビートルズの影響が知らず知らずメロディーに表れているんじゃないかとマットは分析するが、UK特有の陰りのあるメロディーとグランジ/オルタナ・サウンドの絶妙なミックスという彼らだけが持っているアイデンティティーをさらに磨き上げていけば、DPUは無敵の存在になるだろう。
シンプルであることへの挑戦
それともうひとつ。リフレインを効果的に使いながら、まるで一筆書きしたみたいな曲の構成と、3人で演奏することを想定したアンサンブルという、シンプルであることへの挑戦も、彼らの魅力として挙げられると思う。ロックが複雑化してきているいま、DPUの存在は、むしろ衝撃的と考えるべきなのかもしれない。ともあれ、ここまでシンプルに徹することができるのは、曲のクォリティーはもちろんだが、ギターの轟音は何にも代えられないほどカッコイイものだという自信があるからだ。
『Nature Nurture Japan Edition』のリリースに合わせ、DPUは10月28日と30日、東京と大阪で日本のBLUE ENCOUNTとカップリング・ライヴを行う。日本にも90年代のグランジ/オルタナがルーツのバンドは少なくないが、BLUE ENCOUNTとの共演はそういうバンドのファンにアピールするには絶好の機会になるだろう。さらに東京はHello Sleepwalkers、大阪はWHITE ASHがゲストに名を連ねている。“Arizona Waiting”“Lip Hook Kiss”といった曲の持つメロディーが、僕ら日本人の琴線にも触れるものであることを考えると、彼らには洋楽/邦楽の別を意識しない活躍も大いに期待できそうだ。
▼ダイナソー・パイル・アップの作品を紹介
左から、2010年作『Growing Pains』(Friends Vs.)、2014年のタワーレコード限定EP『Peninsula EP』(A-Sketch)
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▼文中に登場したアーティストの作品を一部紹介
左から、フー・ファイターズの97年作『The Colour And The Shape』(Roswell/Capitol)、ブラック・サバスの71年作『Master Of Reality』(Vertigo)、ビートルズの63年作『Please Please Me』(Apple/Parlophone)
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