2011年10月にタワーレコード限定シングル“センチメンタル症候群”をリリースしたときのHello Sleepwalkersは、経歴を明かさない謎のバンドだった。4つ打ちのキック、ミニマルでキャッチーなギター・リフ、マイナー調のエモーショナルなメロディー。それは当時の若手ロック・バンドのひとつの傾向ではあったが、ドラマティックな男女ツイン・ヴォーカルと抽象的な歌詞、どことなく知的でマニアックなムードなど、〈踊ろう! 騒ごう!〉というタイプのバンドとは一線を画す個性が光る新人だった。
あれからちょうど3年。デビュー・アルバム『マジルヨル:ネムラナイワクセイ』(2012年)以降は一気にライヴの数もメディアへの露出も増え、もはや謎のバンドではなくなったが、トリプル・ギターにエフェクトやシーケンスを加えたソリッドで、ダンサブルで、緻密で情報量の多いサウンドというパーソナリティーにはさらなる磨きが。独自のミクスチャー・ロックを築いていったその先にハード・ファイのリチャード・アーチャーとの出会いがあり、前作『Masked Monkey Awakening』の共同プロデュースへと繋がったのは必然だったのかもしれない。リチャードのプロデュースはかなり直接的なもので、原曲のアレンジを大胆に変えることもあったらしいが、メンバーがそれを受け入れて前進した結果、音楽は外側に向かって大きく開かれ、ライヴでの爆発力と一体感が格段に増すこととなった。
その結果として生まれたのが、このサード・アルバム『Liquid Soul and Solid Blood』だ。ふたたびリチャードを共同プロデュースに迎えた本作には、プロボクサーの村田諒太が出演するUSのスポーツ用品ブランド=UNDER ARMOURのCMに起用されたことでも話題の先行曲“Ray of Sunlight”を含む全6曲を収録。1曲目の“百鬼夜行”を聴くだけで、〈ずいぶん開けたな〉という印象は鮮やかだ。もちろん彼ららしい凝ったギターの配置、目まぐるしいリズム・パターンの変化、エレクトロニクスの隠し味などもたっぷりと仕込まれているのだが、まず体感するのは、ライヴに映えるであろうダイナミックなスピード感。音を外側に向ける意識が前作より徹底されている。
“Worker Ant”は4つ打ちと深淵な音響を強く打ち出した曲で、エレクトロニック・ミュージックの持つじわじわとアゲる昂揚感とノイジーなギターとの融合がなんとも刺激的。“アキレスと亀”も4つ打ちだが、ファンキーなベースラインとパンク・ロック的なタテノリが縦横無尽に交錯するのがおもしろい。“朝に二人は”は、メイン・ソングライターのシュンタロウ(ヴォーカル/ギター)ではなくナルミ(ギター/ヴォーカル)とマコト(ベース)のコンビが作ったナンバーで、アルバム中でダントツにポップで切ないメロディーを擁する人懐っこいギター・ロック。“デジボウイ”もオーソドックスなロック・チューンだが、珍しくピアノを入れたシャッフル・ビートがカッコ良い。そして先述の“Ray of Sunlight”は、4つ打ちのパートからシューゲイズ・サウンドへと飛躍する壮大な楽曲だ。
歌詞で声高にメッセージを伝えるタイプではなく、サウンドで思想を語るバンドでもない。ひとつあるとすれば、耳から頭を通して浮かび上がるイメージを自由に楽しんでほしいという意志を感じさせるロック・バンド。そんなみずからの魅力をはっきり意識したこの作品で、Hello Sleepwalkersはさらなる進化への準備を整えた。よりボーダレスになっていくであろう、次の展開がとても楽しみだ。
▼関連作品
左から、2012年作『マジルヨル:ネムラナイワクセイ』、2014年作『Masked Monkey Awakening』(共にA-Sketch)
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