「緑の歌 - 収集群風 -」で鮮烈なデビューを果たした高妍(ガオ イェン)の新作!
台湾と日本。過去と未来。

 はっぴいえんど、村上春樹、岩井俊二の作品が登場する「緑の歌 - 収集群風 -」で鮮烈なデビューを飾り高い評価を受ける台湾の漫画家・高妍(ガオ イェン)による待望の新作。主人公は台湾人の楊洋(ヤンヤン)。台北で暮らす彼女は懸命に介護をしていた最愛の祖母を亡くし傷心の中、想いを寄せていた男性Jに別の恋人がいることが判り、環境を変えるべく台湾芸術大学に籍を置きながら沖縄芸術大学へ短期留学を決意した。異国の地・沖縄で新生活。新たな拠点となったゲストハウスで沖縄人の由里香と知己を得、温かい交流があり、同じ大学の留学生・中国人の李謙(リーチェン)らと出会い、台湾人であること、そのアイデンティティの再認識を経験していく。〈国家とはなにか〉を考えさせられる。そしてタイトルの〈隙間〉。それは人同士の隙間であり国と国との隙間、政治と民衆の隙間。そして恋心、法にも隙間がある。

高妍 『隙間(1)』 KADOKAWA(2025)

高妍 『隙間(2)』 KADOKAWA(2025)

高妍 『隙間(3)』 KADOKAWA(2025)

 留学する前の履修科目を切っ掛けに二・二八事件(第二次世界大戦後、中華民国政府による長期的な民衆への弾圧・虐殺の引き金となった事件)の日に行われるデモへの参加を思い立ち、そこで活動家の中心人物Jとヤンヤンが出会う。近年、台湾はアジア圏で初めて同性婚合法化が実現した国となったことをご存じだろうか。この同性婚について国民投票が台湾で行われることとなり、その運動の中心にもJはいた。そして台湾には偉大なる先人がいた。鄭南榕(ていなんよう)という表現の自由と台湾の民主化を訴え、台湾独立運動を主張した活動家の逸話が登場する。政府・政治を激しく糾弾したことから内乱罪で起訴されることになるが逮捕を拒んだ彼は編集長室でガソリンに火を点け41歳の若さで焼身自殺を遂げたことをこの作品で知った。

 沖縄の人々との交流を通じて彼女の心は少しずつ癒され、自分を取り戻していく。普通に暮らしたいだけなのに、その自由を勝ち取るためにまだまだ闘争が必要な現実世界。覚悟をもって生きてゆくこと、また人間の愛おしさを伝えてくれる作品だ。とにかく絵が美しい。すべての絵に、線に、魂が篭っている。恋愛が主題であった前作と違い、台湾と沖縄という似たところがある背景を鋭く描写し、亡き祖母との記憶を手繰り寄せながら、自らの未来を模索するヤンヤンの幸せを願ってならない。