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音楽ファンに繰り返し聴いてもらえるベースソロアルバムを目指して

――そしてここに『Walking Alone』が完成しました。オーバーダビングや編集の一切ない、ウッドベースの生音だけによるアルバムです。いさぎよいですね。

「平野さんはすぐに〈面白い! やりましょう〉と言ってくれたんですが、ベース1本でアルバムを作るのは、やはり覚悟がいります。僕自身を考えてもベースのソロアルバムを日常的に聴いているわけではないし、ソロの曲をアルバムに入れたりライヴで演ったりすることはあるけれど、それとソロでアルバムを作るのとはまったく次元の違う話ですからね。

ウッドベースのソロアルバムに興味を持つのは、まずは同業者でしょう。でも、僕はむしろ普通の音楽ファンに聴いてもらいたいし、繰り返し聴ける作品にしたい。そう思い描きながら、練習し、曲目を決めて、録音しました」

――フリーインプロビゼーションのコントラバスソロアルバムではなくて、井上さんはみんなが知っている曲を中心に演奏しています。まさしく正攻法ですし、すごくタフだなと思いました。

「僕自身はフリーインプロビゼーションも大好きだから、今回も混ぜようかとも思ったんですが、考えてみると、ベースのソロ演奏って、ちゃんとした楽曲でも何となくフリーインプロビゼーションみたいに聞こえるところがあるでしょう? それなら有名な曲を幅広く集めた方が面白いんじゃないかと思ったんです。リスナーが関心を持ってくれる楽曲の中で自由に演奏する方が僕には向いているような気がして」

 

岡本太郎のアトリエで生ぬるいことはできない。リミッターを外したギリギリの演奏

――井上さんのSNSの投稿には、今回のレコーディングで〈自分の限界とも向きあいました〉というフレーズも登場しています。

「もうちょっと安全に作ることもできたんでしょうけど、なにしろプロデューサーと場所がそれを許してくれなくて(笑)。岡本太郎さんのアトリエで生ぬるいことができるわけがない。アルバムを作るとき、今までは〈なるべくミスを減らして綺麗なものを〉と考えましたが、今回はあえてリミッターを外しました。行けるか行けないか、みたいなギリギリのところで演奏したものやうまくいかなかったパートも、ありのままに入っています」

――そうですか!

「何回も繰り返して一番形の整ったものを選ぶよりも、これはこれでよかったんじゃないかと思います。〈やってみないとわからないけれど、やってみよう〉という気持ちで取り組んだものや、〈もう1回やれ〉と言われてもできないものがそのまま入っていますから。そんな出たとこ勝負みたいなものもあれば、準備を重ねて臨んだものもある。それらが混在している面白さが、このアルバムにはあると思います。

選曲については、僕の好きな楽曲ばかりを選びました」

――“All Blues”ではベースラインとメロディを一緒に弾く展開もありますね。

「それに関してはずいぶん練習しました」

――アルバム全体を聴いても、ただベースの弦を弾くだけじゃなくて、つまびいたり、はじいたり、こすったり、さわったり、楽器の胴体を叩いたり、駒の下を鳴らしたり、アプローチの幅が広いです。

「ベースのソロは、まだピアノやギターのソロほど確立されていませんからね。もっとも、奏法に関してはそのときのインスピレーションです。そのときに感じたものをやるのがジャズの面白いところだ、というスタンスは崩したくないので」