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この作品には僕の60年が詰まっている

――井上さんのオリジナルの中からは、ファンキーな“Magic Touch”が選ばれています。ドラムとの呼吸が必要そうな曲をベースソロの題材として持ってきたのが興味深いです。

「もともとこれは大西順子さんのセクステットのために書いた曲で、そのときはエレキベースで演奏していました。ザ・ヘッドハンターズみたいなムードを意識して作りましたが、それが定番曲になって、トリオではウッドベースで演奏して、ちょっとずつ変化を重ねて、今回1人になったという感じですね」

――渡辺香津美さんの代表曲のひとつ“遠州つばめ返し”も聴きものです。YouTubeに、井上さんのトリオに香津美さんがゲストとして加わってこの曲を演奏している映像がアップされていますね。

「曲自体は以前からありましたが、香津美さんはジャズギターに大きなこだわりがあって、〈リズムチェンジ(“I Got Rhythm”のコード進行)に乗っていかにうまく演奏するかはジャズミュージシャンの永遠の課題である〉と言っていました。この曲はリズムチェンジのところもあるし、例えば山下洋輔さんが参加したときにはフリーフォームのパートがあったり、いろんな展開があるんですが、僕は今回リズムチェンジの方に寄せました。

香津美さんは闘病中ですが、奥様とお話しする機会があって、この曲を録音すると伝えたところ、〈楽しみにしています〉とおっしゃってくれて。そういう、人との約束みたいなものも作品にこめられています」

――改めて、ベーシストにとってベースソロとはどんな存在なんでしょう。

「普段バンドで演奏するときは、管楽器、ピアノ、ギターなどがテーマメロディを演奏して、彼らが順番にソロをとり、ベースにソロの順番が回ってくるのはその後です。それに乗っかるにしろ裏切るにしろ、彼らの作る世界観の影響を受ける。でも今回のような無伴奏のベースソロでは、最初から〈自分の歌〉を奏でなければなりません。しかし、だからといってベースらしいグルーヴを失いたくはない。いわば〈歌心を入れて、グルーヴを保つ〉。僕は今還暦ですが、この作品には僕の60年が詰まっているのかもしれません」

 


RELEASE INFORMATION

井上陽介 『Walking Alone』 Days of Delight(2025)

リリース日:2025年6月26日(木)
品番:DOD-055
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST
1. All Blues
2. Giant Steps
3. Summertime
4. Confirmation
5. Imagine
6. Gymnopedies No. 1
7. 無伴奏チェロ組曲第1番プレリュード
8. I Wish
9. Magic Touch
10. 遠州つばめ返し
11. Softly as in a Morning Sunrise
12. Sunflower
13. Things Ain’t What They Used to Be

(2025年4月15日 東京録音)

■演奏者
井上陽介 bass

 


PROFILE: 井上陽介
ベース奏者。1964年、大阪生まれ。大阪音楽大学在学中よりプロとしてのキャリアをスタートさせ、上京後に日野元彦、佐藤允彦らのグループを経て1991年に米ニューヨークへ。ロイ・ハーグローヴはじめ一線のミュージシャンたちと共演を重ねる一方で、ハンク・ジョーンズ率いるグレート・ジャズ・トリオに迎えられて作品を残すなど現地の最前線でジャズと向き合う。2004年に活動拠点を日本に移してからは多くのトッププレイヤーから引っ張りだこのファーストコールとして活躍。渡辺香津美、大西順子ら日本ジャズ界最高峰のミュージシャンから厚い信頼を得るとともにSuperfly、JUJU、佐藤竹善などポップスフィールドのビッグネームをも積極的にサポート。トップベーシストとして日本ジャズ界を牽引している。1997年のデビュー作『Speak Up』から2024年の『One Step Beyond』までリーダーアルバムは11作を数え、2025年にはキャリア初のソロプレイ集『Walking Alone』を〈Days of Delight〉からリリース。

■Days of Delight
公式サイト:https://www.dod-jp.com/
YouTube:https://www.youtube.com/@daysofdelight6986/videos