タワレコ渋谷店の思い出と渋谷系への複雑な思い
――ここでちょっと時計を巻き戻し、タワーレコード渋谷店が移転した1995年のお話も聞かせていただけたらと思います。この年、GREAT3はメジャーデビューを果たしますよね。
「渋谷店には移転前、子供時代から暇があれば通っていたので、いくらお金を使ったのかわからないくらいです(笑)。僕は目黒に住んでいたんですけど、よく自転車で1時間以上かけて行っていました。アナログがメインだった頃は店内に独特な輸入盤の匂いがあって、ワクワクしたんですよね。ジョー・ジャクソンの『Night And Day』を買ったあとにハチ公前で盛大に転んで、お巡りさんに怪我の手当てしてもらった記憶を今急に思い出しました(笑)。
95年に移転した時は格段に大きくなって、ここは天国じゃないかと思ったほど。入り口にはサテライトスタジオがあってGREAT3で出演したり、なんか1日店員みたいなのを3人でやった記憶もあります(笑)。インターネットが一般的でない時代はレコードショップが一番の情報源だったから、渋谷店は試聴機で気になるCDを片っ端から聴いていくだけで1日を過ごすことができた場所でした。90年代、タワレコ渋谷で見かけるミュージシャンのトップ10に僕は入っていたんじゃないかな(笑)」
――〈渋谷系〉と呼ばれるブームが少し落ち着きを見せた頃でもありましたね。
「今回“Veranda”のタワレコの宣伝文に〈渋谷系の名曲〉って書かれていましたけど、ショコラはまさにその〈渋谷系〉のシーンから出てきたひとりだと思います。ただ、僕自身はそうなのか、そうじゃないのか……。〈渋谷系〉という言葉にあまり自覚的ではなかったんですよね。僕の中で〈渋谷系〉といえば、ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターのイメージでした。
誰かの結婚式でROTTEN HATSが演奏した時に、興奮した様子の小西康陽さんが褒めてくれて嬉しかったことはありましたね(笑)あと、小西さんが新宿のフリーダム・スタジオで『フリーダムのピチカート・ファイヴ』を録音していた時、隣のスタジオにいた僕が呼ばれ〈即興で何か演奏してほしい〉と頼まれて、思いついたコード進行でアコギを弾いたら、その後“スノーフレイクス(雪漫々)”と“コーンフレイクス”という曲になっていた、という交流はありました」
――渋谷系と呼ばれる音楽の多くは、元ネタをあえてそのまま提示し〈これはあの曲だよね〉とリスナーが見つけて楽しむような、ちょっとゲーム的な楽しみ方がありましたよね。
「そういうアプローチが自分の中にはなかったし、なぜああいう表現になるのか、正直なところ最後まで完全には理解できなかった。自分が渋谷系と最も違うと感じていたのは、その部分かもしれません。
もちろん、自分も洋楽の影響はたくさん受けていたし、それをどう自分の中で消化して音楽にしていくかは常に意識していました。でも、たとえば“Under the Dog”(『Richmond High』収録)という曲は、コード進行自体はフィラデルフィアソウルっぽい。でも、それを重たく鳴らすとニール・ヤングっぽく聴こえる。そんなふうに、異なる要素を掛け合わせて〈自分たちだけのもの〉を作る意識が強くあったんですよ。
どっちが良い悪いという話ではなくて、単に〈美学の違い〉ですよね。そういう多様性こそが、90年代の面白さでもあったと思いますし。個人的には〈Free Soul〉のセンスがすごく好きでした。自分の好みと合っていたというか。たとえばAOR的な要素。今でこそ評価されることも多いけど、当時はちょっと恥ずかしくて、口に出すのをためらうようなジャンルだったわけじゃないですか」
――ネッド・ドヒニーとか、ボビー・コールドウェルとか(笑)。
「でも〈Free Soul〉が扱っていた70年代ソウルやジャズには、AOR寄りのコード感やテイストがあったし、〈こういう音楽がもう一度、メインストリームに戻ってきてもいいんだ〉っていう感覚が芽生え始めていた気がします」
時代を超える片寄明人にとっての定番曲“Veranda”
――今回の“Veranda”という楽曲、いまの若い世代、たとえば20代のリスナーにはどんなふうに届いたら嬉しいですか?
「この曲は今でもソロのライブでよく歌っていて、ショコラとのユニット〈Chocolat & Akito〉でも演奏しています。ちょっと変わった経緯で生まれた曲ではあるけれど、自分にとってはすごく大切な一曲です。ある意味、自分の〈定番曲〉というか……自作曲の中でも〈これはいい曲だな〉と思えるもののひとつですね。今聴いてもそんなに古びた感じがしないし、若い人たちにも自然なかたちで出会ってもらえたら嬉しいです」
――さっきも言ったように、“Veranda”は音を削ぎ落としたからこそ、結果的に〈時代を感じさせない〉というか、タイムレスな響きになったように思います。
「それはあるかもしれない。〈いつの時代の曲かわからない〉という感覚は自分にとって大切なものです。そんな曲を、日本のメジャーシーンで第一線を走ってきた佐橋佳幸さんと、ある種〈キテレツ〉とも言えるような方法で作れたというのは、自分らしいし面白い成果だったなと思います。
歌詞もね、言葉にしてしまうと少し陳腐に聞こえるかもしれないけど、〈当たり前の日常こそが、実は最もかけがえのないもの〉という思いが込められていて。この視点は、その後の自分の作品で掘り下げるテーマになっていくんです。ここまでのGREAT3にはあまりなかった感覚かもしれないですね」
RELEASE INFORMATION
渋谷店30周年記念先行販売:2025年7月17日(木)
一般発売日:2025年7月23日(水)
品番:PROT7343
形態:7 inchアナログ盤 E式ジャケット仕様
価格:2,750円(税込)
商品ページ:https://tower.jp/article/feature_item/2025/05/22/0701
TRACKLIST
SIDE A: Veranda
SIDE B: Tears Of Enamel
PROFILE: 片寄明人
GREAT3のボーカル&ギターとして、その高い音楽性と個性で日本の音楽シーンに確固たる地位を築いている。妻であるショコラとのデュオ、Chocolat & Akitoとしても活動。最新作はトロ・イ・モアやトミー・ゲレロとの共演で知られるカリフォルニアの双子デュオ、ザ・マットソン2と制作した『Chocolat & Akito meets The Mattson 2』。また音楽プロデューサーとしてTENDOUJI、SHE IS SUMMER、DAOKO、木村カエラ、花澤香菜、ははの気まぐれ、YeYe、フジファブリック、GO!GO!7188など数多くのミュージシャンの作品も制作。8歳の息子と家族3人でお届けするラジオ番組、京都α-station「EVERYDAY STORY」も8年目を迎えて絶賛放送中。
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