Page 2 / 2 1ページ目から読む

“ドーナツ・ソング”の軽快なリズムに乗せて改めて挨拶を済ます。“ドーナツ・ソング”の間奏部分では、山下が大滝詠一“ハンド・クラッピング・ルンバ”をオマージュする形で手拍子の音頭を取る場面も。初めましてのオーディエンスとも積極的にコミュニケーションを取っていく姿も何だか新鮮だ。

「夏なので、夏の歌を一曲」と述べて始まったのは“僕らの夏の夢”。雄大なバラードであると同時に、各プレイヤーの凄みを改めて目の当たりにした楽曲だった。特に小笠原の繊細なハイハットとしなやかなタム回し、そしてコーラス隊の透きとおるような歌声が楽曲に奥行きを与えていた。

山下いわく、「50年もやっていると、こういうところで何をやるか迷って迷って。とても困りますが……」とのことだが、それでもフジロックならではの趣向を凝らしたメニューを用意してきたようだ。「せっかく50年もやってきたので、今日はひとつ懐かしい、とてもオールドスクールなファンクミュージックを」と語ると、“SILENT SCREAMER”と“BOMBER”をプレイ。曲間をなくし、“BOMBER”の最後には再び“SILENT SCREAMER”のフレーズを持ってくるマッシュアップ的なメドレーに舌を巻く。

なめらかな鳥山のギター、グルーヴの根幹を担う伊藤のスラップベース、山下の音楽の本質を知り尽くす柴田と難波によるシンセワークが、煌びやかで情熱的なファンクネスを纏って苗場に響きわたった。

そして誰もが期待していたであろう“プラスティック・ラブ”もしっかり披露された。竹内まりやと同じキーで歌う山下を見るたびに、彼のボーカリストとしての力量とプライドの高さを感じる(山下はセルフカバーでも自身の曲でもオリジナルと同様のキーで歌うことを徹底している)。

1コーラス目の長めの間奏の途中、サプライズゲストとして竹内まりやが登場。狙ったかどうかは定かではないが、今年の竹内のツアーでは2コーラス目を山下が歌唱していたことを踏まえると、このフジロックをもって見事にパズルがはまったような感覚がした。こうしたニクい演出を受けて、GREEN STAGEはこの日一番の盛り上がりを見せた。

“プラスティック・ラブ”を終えて竹内がコーラス隊の一員に加わると、山下がミュートしたカッティングでリズムを取り“RIDE ON TIME”へ。難波のグリッサンドが爽やかな風を呼び、宮里のサックスが苗場の山々に突き刺さる。また、サビの〈RIDE ON TIME〉の部分を観客がシンガロングしていたが、この光景もまた山下の単独ライブでは見ることのできないものだ。

“アトムの子”も〈Fe-Fe-Feel It!〉の部分を観客が山下とともに歌い上げる。小笠原の地面を持ち上げるようなフロアタムも終止心地よい。続くアン・ルイス“恋のブギ・ウギ・トレイン”のセルフカバーも山下のライブの定番曲だ。特別な演出も確かにあったが、山下のワンマンライブの特に旨味のある部分を抽出したかのような構成だった。

「まだ7月でこれから本格的な夏ですけど、一足早い夏の終わりの歌を」

初のフジロックのラストを飾ったのは“さよなら夏の日”。ハンドマイクで、目の前にそびえる苗場の山々を見上げながら歌う山下。心に沁みわたる温かいメロディーが、大いに賑わったGREEN STAGEを平熱へと戻していった。

山下はMCで「また呼んでいただければやりたいと思います」と口にしていた。もう一度があるなら、また苗場で彼の音楽を味わいたい。夏の始まりと終わりを丸ごと体感した70分間だった。

 


SETLIST
SE〜MOVE ON
1. SPARKLE
2. あまく危険な香り
3. ドーナツ・ソング
4. 僕らの夏の夢
5. SILENT SCREAMER
6. BOMBER
7. プラスティック・ラブ
8. RIDE ON TIME
9. アトムの子
10. 恋のブギ・ウギ・トレイン
11. さよなら夏の日