
誰にも似ない演奏を求めて
――トランペットソロはハードルが高いとおっしゃっていましたが、実際、他の楽器に比べて、アルバム一枚トランペットだけという作品は少ないですよね。
「サックスに比べると少ないですね。ただ、ヨーロッパにはソロアルバムを出している人もわりといるんですよ。ドイツのアクセル・ドゥナーとかが好きなんですけど、息の音だけでワントラックを作るみたいなことをやっていて。最近はイタリアのフラヴィオ・ザヌッティーニをよく聴いたり」
――アメリカはどうでしょうか? ピーター・エヴァンスやネイト・ウーリーが有名どころですが。
「ピーター・エヴァンスも好きなんですけど、マッチョすぎるというか、真似できない領域だと感じます。ネイト・ウーリーのほうが好きですね。あとはシカゴのロブ・マズレクとか。でもアメリカのフリージャズにはマッチョな人が多いイメージはあります。だからヨーロッパのほうが共感できるトランペッターは多いかも」
――即興的なアプローチという点で研究したり聴き直したりしたトランペッターはいますか?
「よく聴いたのは、ニルス・ペッター・モルヴェルとかアルヴェ・ヘンリクセンとか、あの辺の北欧系が好きです。
ただ、特定のミュージシャンを研究したというより、いろいろなトランペッターを聴いて、少しずつ自分に必要なものを取り入れてきた感じです。好きなトランペッターといっても僕ができることと必ずしも一緒ではないので。
だからライブの中で偶然出てきたものを大事にすることのほうが多いかもしれない。板橋さんじゃないですけど、現場で窮地に迫られて開発した表現が定着していったことの積み重ねが、今の自分を形作っているというか」
――日本に目を向けると、近藤等則さんや田村夏樹さん、北陽一郎さん、江崎將史さんなどがトランペットのソロ作を出しています。
「近藤さんはエフェクトをかけたトランペットのイメージが強いですが、生音の時代も素晴らしいんですよ。何度かライブも観ました。
ただ、どのトランペッターにしても聴きすぎると影響を受けてしまうから、参考程度にしています。聴いていて〈この人はあの人から影響を受けているな〉と感じることもあって。僕としては、誰とも似ていないところに行きたいという思いが強い」

その場の閃きと説得力のある音を刻んだアルバム
――やはりトランペットは無伴奏ソロが難しいと感じますか?
「たしかにそういうハードルはあります。単音楽器だし、レンジが狭いんですよね。普通に使えば2オクターブぐらいしか出せない。唇を震わせて音を作るので吹き続けるのも大変で、音色も限られている。別の楽器と一緒にやったほうが楽だと思います」
――そうした制約があるなか、今回ソロアルバムを作るにあたって、どのようなことを意識しましたか?
「ソロなので細かい音まで聴いてもらえることは意識しました。他の楽器と一緒ではないから、裏を返すとトランペットの音だけにフォーカスできる。だから僕が特徴的に使うようにしているサブトーンの音色とか、限られたダイナミックレンジの中での動きとか、一人だからこそ聴いてもらえる細部を意識しています」
――ライブだとエフェクターを使うことも多いですよね。今回ほぼ生音だけで演奏しているのはなぜですか?
「せっかく岡本太郎のアトリエという特別な環境でレコーディングできたので、エフェクターを使うより生音の、人力で出せる音の種類を中心に表現したかったんです」
――実際にレコーディングしてみて、アトリエはどんな場所だと感じました?
「普段は入れない場所なので喜びもありましたし、場所に染み込んでいるものがあるとも感じました。数々の作品が生み出された場所という独特の空気を感じて。場のエネルギーみたいなものがあったというか」
――ライブのように長時間のセットをレコーディングするパターンもあると思いますが、今回、2〜3分の短いトラックが中心になっています。こうした構成にしたのは?
「ライブは1時間ぐらいぶっ続けでやるんですけど、それはライブだからできることのような気がしていて。実際に吹いている人がいて、それを聴いているお客さんがいて、場所が共有できているからこそ、時間を積み重ねていける。たとえばライブの最後5分を切り取ったとしても、それは1時間続いた時間のラスト5分なので、ライブであればそういう捉え方ができます。時間をしっかり使えるんです。もしくは演奏しない、音が鳴らない時間があっても、その場所を共有していると成り立たせることができる。
でも録音作品はそうじゃない。なので、長時間の演奏より集中した2〜3分の演奏が並んだほうがいいと思って。演奏する人と同じ空間で聴くのと、音源で音だけ聴くのでは聴き方も違ってくるので、今回は録音作品であることを意識しました」
――即興演奏のほか、オリジナル曲の演奏、サンプラーで作ったトラックを流しながらの演奏も収録されています。取り上げる曲やトラックは想定していましたか?
「その場で思いついたことをやって、録っては切り替えてまた別の演奏をすることの連続でした。最初から決めていたわけではなく、次になにをやろうかと迷いながら、ふと思いついて曲を演奏した感じです。
サンプラーもソロライブのときに使っているやつで、素材は入れっぱなしなんですよ。『独裁者』でチャップリンがヒトラーを風刺した演説とか。事前に用意したり編集で追加したりしたのではなく、その場でサンプラーを使ってトラックを作っていきました。
ソロだと、いろいろなことがすぐにバレてしまうんですよね。もちろんサンプル素材や音源は用意してあるものですし、オリジナル曲も事前に作ってはいるわけですけど、準備したものを披露するみたいになってしまうと面白くない。理想としてはその場で100%思いついたものを出したいんです。どこかでやった演奏が出ているかもしれないけど、あくまでもその場の閃きを重視したい。特にソロだと共演者もいないので、説得力のある音を出していかないと飽きられてしまう。難しいけど、そのほうが面白いし、僕としては好きですね」