大人のための絵本〈歌詞(うた)の本棚〉シリーズにフラカンの名曲が仲間入り

 時をこえて聴き手の心を揺さぶり続ける名曲の歌詞をモチーフにし、気鋭のイラストレーターたちが筆を走らせて一冊の絵本に仕立て上げる〈歌詞(うた)の本棚〉シリーズに新たな仲間が加わった。

鈴木圭介, 丹下京子 『歌詞(うた)の本棚 深夜高速』 リットーミュージック(2025)

 今回採り上げる楽曲は、フラワーカンパニーズが2004年にリリースした16枚目のシングル“深夜高速”。フラカンがいったいどちらのどなた様かわからない方も、〈生きててよかった〉というあまりに印象的なサビのフレーズはどこかで耳にしたことがあるはずだ。著名アーティスト複数人のカヴァー・ヴァージョンが登場するTV CMがオンエアされたり、丸々この曲のカヴァーのみで構成されたトリビュート・アルバム『深夜高速 -生きててよかったの集い-』がリリースされるなど、さまざまな人の声によってこの切なる叫びは多岐に渡って伝えられてきたわけだが、もはやフラカン自体が届け先を定めなくとも、独り歩き、否、独り走りする存在へと育っている、というのは自他ともに認めるところだろう(曲世界に熱い思いを投影せずにはいられないお笑い芸人がけっこういるのも特徴的で、この曲をアンセムとする芸人たちが〈それぞれの深夜高速〉なるイヴェントをかつて開催したこともあった)。

 今宵もきっとまた誰かの夜の隙間に忍び込み、お守りの役割を果たしているはずの“深夜高速”にこのたび新たな色と光を与える任務を授かったのは、北野武の私小説「浅草迄」のカヴァーを手がけたことでも知られるイラストレーターの丹下京子。楽曲の底辺に流れている寂しさや不安や苛立ちや負けじ魂を丁寧になぞりながら、広がりのある豊かなストーリーを紡いでみせるこの本にもまたオリジナル曲と同様、誰でも区別せず受け入れてさりげなくハッパをかけてくれる、柔らかい頑固さのようなものがハッキリと確認できる。これは間違いなく自分についての歌なのだ、と頑なに信じて止まない人にとっても、手にしてよかった、と思えるはずだし、朝が来るまで誰かと話し合っていたい、そんな気分を満たしてくれる相手を探してる人にはとてもありがたい一冊になると思う。