米津玄師はデンジとレゼをどう表現したのか?　「チェンソーマンレゼ篇」の世界的ヒットを受け“IRIS OUT”“JANE DOE”を徹底分析

“IRIS OUT”がヒットしているもう一つの要因

“IRIS OUT”は、国内チャートを席巻するのみならず、グローバルでもヒットを記録することとなった。米ビルボ―ドによる世界200以上の地域を対象としたグローバルチャート〈Global 200〉では2週連続で5位を獲得。これは日本語楽曲で史上最高位となる快挙である。

注目すべきは、“IRIS OUT”が映画の広がりとともにじわじわと聴かれるようになったわけではなく、ロケットスタート型のヒットを記録しているということ。その背景には、アニメを含む「チェンソーマン」シリーズの圧倒的な海外人気という大きな要因がある。今回の「チェンソーマンレゼ篇」も、その人気から日本公開を前にして世界各国のファンから注目されていただけに、主題歌への期待値も高かったことだろう（米津にはTVアニメ版のオープニングテーマ“KICK BACK”で、アメリカレコード協会RIAAより日本語詞の楽曲として史上初となるプラチナ認定を受けた実績がある）。

さらに、“IRIS OUT”は9月24日に映画が公開となった韓国でも各ストリーミングチャートで上位にランクイン。「チェンソーマン」人気が特に高いアメリカでは10月24日より劇場公開され、週末3日間の興行収入ランキングでは初登場1位を獲得しただけに、さらに“IRIS OUT”の再生数は伸びていくだろう。米津玄師と日本の音楽にとっての新たな記録は、今後も更新される可能性が高い。

デンジとレゼの距離感を表現した宇多田ヒカルとの“JANE DOE”

そして、宇多田ヒカルとの奇跡のコラボが実現したエンディングテーマ“JANE DOE”は、エレガントでメランコリックな8分の6拍子のバラードだ。Dメジャーキーながら、楽曲から〈悲しみ〉という通奏低音を感じるのは、ピアノを中心としたミニマルな音像、Em9から始まりディミニッシュコードが連鎖する不安定な進行、下行するピアノのリフによって、冒頭から深い寂しさを湛えた音世界が構築されているから。反復される旋律が徐々にビルドアップしていく構造は、映画のエンドロールが流れる中で、観客の感情がゆっくり整理されていく過程と呼応する。

曲のタイトルでもある〈JANE DOE〉とは、身元不明の女性を指すアメリカの法律用語だ。デンジとレゼは互いに本名も素性も知らないまま惹かれ合い、別れを迎えた。曲中、宇多田と米津が同じ旋律や歌詞を同時に歌うことはないが、かすかに交わる瞬間も有する構成となっており、近くにいても完全には理解し合えなかった――完全には理解し合えずとも惹かれ合った2人の距離感を絶妙に表現している。

優れたモチーフ選び、映画のストーリーを踏まえて観る者／聴く者の感情に訴えかける音世界など、米津の大胆かつ繊細な部分が表出した2曲は、今後彼にどんな景色を見せていくのだろうか。

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参考文献
米津玄師「IRIS OUT / JANE DOE」インタビュー｜2曲に刻んだレゼの魅惑とその足跡、宇多田ヒカルとの制作秘話を語る https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi31
米津玄師公式サイト https://reissuerecords.net/2025/10/01/irisout_fanart/
米津玄師「IRIS OUT」の快進撃止まらず!　週間総合チャート3週連続で首位獲得 https://www.thefirsttimes.jp/news/0000700585/
「チェンソーマンレゼ篇」が初登場1位! 「鬼滅の刃」に続き北米でアニメ映画が好調 https://eiga.com/l/rJ27B

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