頭の中に鳴っていた音
バンド演奏が付くことによって楽曲個々のカラーがより明確化されている印象がある。例えばケルト風味を注入した“燃やせ燃やせよ”、あるいはニューオーリンズ調スタイルを採用した“あたしのトラック”、それからマナサスあたりを連想させるラテン・ロック・アプローチの“素晴らしき日々”など、これまで隠し味として潜らせていたアレンジのエッセンスが前面に出されており、従来路線の拡張工事がかなり進んだ感じとでも言えばよいか。
伊東「ふたりだけだと地味になりがちだったところを拡げてくれたんですよね。あと、佐橋さんのギターがいろんな色を足してくれたことも嬉しい。これまでいろんな大ヒット曲を輩出してきた方なのに、ひとたびギターを握ると少年のように楽しんでいたのが印象的でした。“ブギーマンブギ”のギター・ソロやアウトロの歪みとスライドの感じとか、音楽を好きになった日からずっとそのまんま、って感じのプレイで」
篠田「当然プロデューサーとしてはプレイに対しては厳しかったです。従来のレコーディングならOKを出していただろうテイクも、彼は徹底的にやり直そうって采配を振られていた。1/1000秒のズレに気付いて修正を施していくところは勉強になりましたね」
坂田学と古田たかしという持ち味の異なるドラマーのふたりが、個性ある色合いを持ち込んでいる点も見逃せない。とりわけ古田のキャラクターの爆発ぶりは顕著で、代表曲を再演した“泪橋”での暴風雨的なドラミングは呆気にとられるほど(「生き様が垣間見えた」とは篠田の弁)。また「何気ないようなピアノなのに、独特のグルーヴを紡いでいるのがすごい」と篠田が称賛するDr.KyOnの鍵盤捌きも特筆ものだ。とにかく胸のすくような名演の連続に「皆さん、もうバケモノみたい」と伊東も笑うばかりだ。
篠田「僕らが勝手に良く捉えてるだけかもしんないけど、おそらく皆さん久々に楽しいレコーディングだったんじゃないかなって思う。イナタい芋侍みたいな僕らの音楽に見事に反応し、何度も諦めず細部にわたって表現してくれて。〈俺もっとカッコ良く弾けるからもう一回やらせて〉って直訴する姿を目の当たりにして、仕事の枠を超えてなんとかこのプロジェクトを成功させたい、っていう皆さんの気持ちが伝わりました。レコーディングは真夏に地下の狭いスタジオで録ったんですが、そこは灼熱の空間で、在りし日のスタックスやモータウンのセッションってこういう感じだったのかな?って想像したりもした。あのときの熱さがまだ身体に残っているんですよ」