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素朴な歌に滲む夫婦の日常や生活

また、ボーカルはハンバート ハンバートの2人による対話するようなスタイルが採られているが、〈これでもいいかと思ったり〉〈野垂れ死ぬかもしれないね〉といったトキを連想するパートは佐野遊穂がメインで歌い、〈そんなじゃダメだと怒ったり〉〈そんなじゃダメだと焦ったり〉など気難しい性格のヘブンを思わせるパートは佐藤良成が担うなど、工夫が凝らされたその掛け合いは、まるでトキとヘブンが語り合っているかのような親密な空気を生んでいる。

歌の終盤に登場する〈黄昏の街西向きの部屋〉は、「思い出の記」に綴られている、西向きの書斎を好んだハーンのエピソードへのオマージュだろう。その書斎で創作活動に没頭するハーンの静けさを〈壊さぬよう戸を閉めて〉いたセツ。そんな夫婦の阿吽の呼吸や生活の息遣いが、ハンバート ハンバートならではの、人間の感情のざらつきや生々しい体温を大事にした飾らない素朴な歌声の奥に自然と立ちのぼってくるのだ。

そして、フォークやカントリーをルーツとするこのデュオらしい牧歌的なメロディーと、やや跳ねるようなゆったりとしたリズムも印象的だ。これは、サビで繰り返し歌われる〈散歩〉の足取りを思わせる。散歩はセツとハーンの思い出の一つでもあるが、何があるのか、どこに行くのかもわからないまま、ただ2人で並んで歩くさまは、夫婦の人生そのものを象徴しているのかもしれない。

 

これは現代を生きる私たちに寄り添う歌

“笑ったり転んだり”は、セツとハーン、トキとヘブンのように、支え合いながら生きる者同士の愛の歌であると同時に、現代を生きる私たちの日常に寄り添ってくれる曲でもあると感じる。〈毎日難儀なことばかり〉〈日に日に世界が悪くなる〉という嘆きは、分断や格差が拡大する社会で絶えず不安に晒されている私たちの暮らしの実感でもあるからだ。だからこそ、多くの人がこの歌に自分の境遇や想いを重ねることができるのであり、〈落ち込まないで諦めないで〉というフレーズが静かな励ましとして聴き手の胸に届くのではないだろうか。

「ばけばけ」では、トキとヘブンが怪談を通じて心を通わせ、夫婦として歩み始める姿がこれから本格的に描かれていく。明治の世において、異文化のはざまで生きる2人の前には多くの困難が待ち受けているだろう。しかし、それでも2人は何度暗闇に引き込まれても、互いの存在に光を見出していくに違いないと、この歌は信じさせてくれる。そして、そんな物語が内包する光と闇のコントラストが今後、一層陰影を増しながら深い人間ドラマを織りなしていくのではないかと、期待してやまない。

 


RELEASE INFORMATION

ハンバート ハンバート 『ハンバート入門』 SPACE SHOWER(2025)

リリース日:2025年11月26日(水)

■初回限定盤(CD+Blu-ray)
品番:DDCB-94037
価格:5,500円(税込)
Blu-ray収録内容:ツアー2025「寝ても覚めても」大阪・オリックス劇場(2025年2月28日)での公演を収録した約100分の映像作品

■通常盤(CD)
品番:DDCB-14083
価格:3,300円(税込)

TRACKLIST
1. 笑ったり転んだり
2. 夜明け 『for hundreds of children』(2001)
3. メッセージ 『for hundreds of children』(2001)
4. アメリカの恋人 『アメリカの友人』(2002)
5. おなじ話 『11のみじかい話』(2005)
6. 長いこと待っていたんだ 『道はつづく』(2006)
7. バビロン 『まっくらやみのにらめっこ』(2008)
8. 国語 『まっくらやみのにらめっこ』(2008)
9. 大宴会 『FOLK 2』(2018)
10. 虎 『FOLK 2』(2018)
11. ぼくのお日さま 『むかしぼくはみじめだった』(2014)
12. 横顔しか知らない 『FOLK』(2016)
13. ちいさな冒険者 『FOLK』(2016)
14. がんばれ兄ちゃん 『家族行進曲』(2017)
15. それでもともに歩いていく 『愛のひみつ』(2020)
16. 黄金のふたり 『丈夫な私たち』(2022)
17. 恋の顛末 『丈夫な私たち』(2022)
18. ふたつの星 『丈夫な私たち』(2022)
19. トンネル 『カーニバルの夢』(2024)

 

TV INFORMATION
連続テレビ小説「ばけばけ」
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート “笑ったり転んだり”
出演:髙石あかり/トミー・バストウ/吉沢亮 ほか
公式サイト:https://www.nhk.jp/g/ts/662ZX5J3WG/

 


PROFILE: ハンバート ハンバート
1998年結成、佐野遊穂と佐藤良成によるデュオ。2人ともがメインボーカルを担当し、フォーク、カントリーなどをルーツにした楽曲と、別れやコンプレックスをテーマにした独自の詞の世界観を持つ。これまでに12枚のオリジナルアルバムを発表し、テレビ・映画・CMなどへの楽曲提供も多数。2014年発表の楽曲“ぼくのお日さま”が主題歌/タイトルとなった映画「ぼくのお日さま」(2024年/監督:奥山大史)では、佐藤が劇伴も担当。また、2024年リリースのアルバム『カーニバルの夢』収録曲“トンネル”はドキュメンタリー映画「大きな家」(監督:竹林亮/企画・プロデュース:齊藤工)の主題歌として起用された。2025年9⽉29⽇放送開始のNHK連続テレビ⼩説「ばけばけ」の主題歌を担当、ドラマのために“笑ったり転んだり”を書き下ろした。