この漫画は壇蜜との〈恋愛記〉や〈結婚記〉でなく 壇蜜への〈潜入取材記〉である
〈東京都北区赤羽〉を描いた漫画作品が原作となり山田孝之主演で2015年にTVドラマ化、〈赤羽〉の地価をイッキに急上昇させてしまった漫画家・清野とおるは赤塚不二夫や楳図かずおといった漫画家の系譜で認識すべき存在といえる。マスク姿は堅守しつつも、その端整な顔立ちがわかり、メディア出演を厭わない稀有な作家である。眼と鼻が鋭く、面白そうなネタ、奇人と怪奇ネタを見逃さない。〈赤羽〉の魅力はそこに暮らす人々の魅力といえ、清野さんはワニダさんをはじめ個性だらけの奇特な人々がいる虎穴へ突入し、作品化を果たしている。
清野さんは超常現象についてもその謎を恐れず調査する。〈心霊版雨ニモマケズ〉である。東に霊の出るラーメン屋があると聞けば、そこに行って、といった具合である。そんな彼があの壇蜜さんと結婚。まるで平安時代のように通い婚をしているとニュースで知った。本作はなんとその自分の奥様・壇蜜さんを主人公にした作品。しかもほぼ実話というのが信じられないエピソードのオンパレードだ。壇蜜さんを称して〈一人赤羽〉という比喩も出てくる。

壇蜜さんは美しく文才もあり、著作も多数あり、テレビ・ラジオ番組での鋭い発言に感銘を受けている人も多い。そんな才女の私生活は〈謎〉に満ち満ちている。壇蜜さんが自ら動いて清野さんの家族や親戚と逢い、時には自身のセクシーな写真集をプレゼントしながら自然と結婚へと向かうように外堀を埋めていったり、壇蜜邸で発生する謎の〈超常・怪奇現象〉の謎に迫ったりする。午前0時に鳴る謎のアラーム音や床に浮かんだ怖すぎるシミ(実際の写真が掲載されている)や部屋で話しかけてくる謎の女性の声、〈誰もいない筈の上の住人〉などオカルトネタも満載。いわば〈夫婦オカルト漫画〉であるところも魅力だ。単行本の巻末には夫婦による初対談を収録。これが読みごたえあり! さらに京都の怪談師として知られる三木大雲和尚による壇蜜邸の訪問記も収録されている。
ふたりの出逢いから日常までを描いているだけなのに、なんでこんなにも面白いのだろうかと感じるのは、壇蜜さんが我々の想像を超えるスリル溢れる行動や発言をし、実際に不思議な現象が起こり、またこれらを作家の眼で鋭く描写する清野さんの才能が結実した、〈愛の記録〉といえる作品だからこそ。さらに〈夫婦〉って良いものだなとも。そして願うのは、壇蜜さんのご体調が快復されること。みんなで応援しましょう。