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自分を愛してくれなかった世界への復讐として、逆に世界を愛する

――個人的には、“周回遅れ”のギターもすごく好きで。

たなか「“周回遅れ”のソロが一番いいんですよ」

――“花霞”とか“醜形の女神”みたいに、基本的にはかっちりしたギターを弾くイメージがあるけど、“周回遅れ”みたいなちょっとルーズなプレイもめっちゃいいなって。

Ichika「“周回遅れ”はローファイヒップホップの拡張版みたいなイメージで、歌も乗っけて、その中で急にジャズギターも放り込んだりして。

あとこの曲は、たなかの声と自分のギターがマッチするいい形を見つけられたんです。サビはもともとオクターブ下で歌ってもらってたんだけど、あえて上の方をメインに使ってみたらハマりが良くなって。吐息感のある歌の方が、クリーンのギターに合うなって」

ササノ「“醜形の女神”はいい意味で俺が作れない曲なんですよ。それがものすごくいい形になったなって。〈俺タッチできてないし〉と思いつつ、レコーディングだけ同席したんですけど、歌が入って、できたのを聴いたらすごくよくて、悔しいなと思って。〈それIchikaに言ったら喜びますよ〉って言われたから、〈よくて悔しい〉ってLINEしました(笑)」

たなか「俺も“醜形の女神”が一番好きなんだよね。曲としてもそうだし、歌詞とか歌唱とか、ミクロの部分でもそう。俺はやっぱり何らかの新しさを生みたいと思っていて、それがないとあんまり作る意味がないと思っちゃうけど、そういう新しさを一番きれいに出せたのがこの曲だなって。

前に“フライディ・チャイナタウン”をカバーしたんですけど、メロはそういう昭和歌謡の系譜です。かつ歌詞は、いわゆるメンヘラ女子みたいな子が主人公なんですけど、それこそ単に沈んでいく曲ではなく、自分を愛してくれなかった世界に対する復讐として、逆にこっちが世界を愛するっていう曲で、そうすると主体と客体が逆転して、人生における主語が自分になる。でもそれは単にハッピーな、〈愛されないなら、愛しちゃったらいいじゃない!〉みたいな話というよりは、もっと暗くて、愛憎の表裏一体のギリ愛寄り。毒としての愛みたいなものが、よく書けたんじゃないかなって」

 

〈打ち込みでどうにもならない音〉への挑戦

――ササノくんは今回いろんな曲に挑戦した中で、特に苦労した曲を挙げるとしたら?

ササノ「“B.U.G.”は本当に頭と時間とお金をかけました。最初たなかからの〈こういう感じの曲が欲しい〉っていうリファレンスがあって。で、ビート感かなと思って、ビートを先に作ったけどそうじゃなくて、結果ブラスだったんです。

でもブラスは、自分が吹奏楽をやってたから余計にそうなんですけど、全ての楽器の中で一番打ち込みでどうにもならない音だと思ってて。サンプリング感を出すならなんとかなるけど、ちゃんとフレーズのあるブラスはいまだに安っぽくなってしまう。なので、いろいろサンプルを買ってみたり、コネコネしてみたり、Ichikaにも助言をもらいつつ、最終的に今の形になって」

――〈打ち込みでも生演奏でもないサンプリングの質感をどう出すかが個人的なチャレンジだった〉というコメントもありますね。

ササノ「ブラスを入れた曲はこれまであんまり作ってこなかったし、入れても室内楽系統のトランペットとか、ゆったりとした流れのものが多かったので、ビッグバンド系は本当に難しいんだなと思いました。でも結果的にすごく楽しい曲になって、こういう曲を作れたらいいなっていうものが一つ形にできた気がしますね」