ショーガールの人生はドラマよりもドラマティック――時代を創造する華やかなステージを世界中で繰り広げるなか、舞台裏で内面にはどのような感情が渦巻いていたのか?

新たなインスピレーション

 ポスト・マローンとの“Fortnight”をはじめとするヒットを繰り出したアルバム『The Tortured Poets Department』から約1年半ぶり。安定のハイペースでテイラー・スウィフトがニューアルバム『The Life Of A Showgirl』を届けてくれた。10月の配信スタート以来、次々と新記録を樹立しているこのアルバムだが、通算12作目となる本作で、彼女はまたもや新たなインスピレーションを見い出し、新たな地平を見つめている。尽きることがない彼女のクリエイティヴィティとヴァイタリティにはいまさらながら恐れ入るしかないが、今作の最大のポイントは、やはりウェディングを前にした彼女の状況、心境ではないかと思う。恐らくこれが独身時代における最後のアルバムとなるはず。人生の大きな節目を目前に、女性としての喜びと膨らむエモーション、そして静かなる躍動感が、アルバムのここそこから聴こえてくるかのようだ。

TAYLOR SWIFT 『The Life Of A Showgirl』 Republic/ユニバーサル(2025)

 そんな弾む心を反映するかのように、彼女が今回の共作者/プロデューサーに選んだのは、ポップ界の最高峰クリエイターとして名を馳せるマックス・マーティン、そしてシェルバックだ。ご存知のようにマックス・マーティンはブリトニー・スピアーズからケイティ・ペリー、アリアナ・グランデ、ザ・ウィークエンド、マルーン5までを手掛けるポップの魔術師。彼の愛弟子とも言えるシェルバックも、共に多数のアーティストを手掛けてきたスウェーデンのクリエイターだ。この2人の関わった数々のヒット曲を挙げていくと枚挙にいとまがないのだが、テイラーも彼らとは多数の楽曲を制作してきた。古くは2012年作『Red』からの“We Are Never Ever Getting Back Together”や“I Knew Your Were Trouble”、2014年作『1989』に収録の“Shake It Off”や“Blank Space”“Style”“Bad Blood”“Wildest Dreams”、2017年作『Reputation』収録の“...Ready For It?”やエド・シーラン&フューチャーと共演した“End Game”、“Delicate”などで、彼女がカントリー界からポップ界に移行する過程で大きな役割を果たしてきた存在となる。

 そんな2人の鬼才が新作に大きく関わっている、というニュースが報じられるや、多くのファンが彼女最大のポップ・アルバムであり、キャリア史上最大の成功を収めた『1989』のような激ポップ作になるのではないかと想像し、期待を膨らませた。が、蓋を開ければ確かにポップではあるものの、『1989』とは随分と異なる作風とサウンドに彩られている。あそこまで煌びやかなポップ全開ではなく、むしろ控えめで、時にメランコリックだったり、ソフトタッチのポップ/ロック・ソングが多く並んでいる。キャピキャピだった20代の頃とは異なり、30代ならではの落ち着き払った佇まいや思慮深さ、穏やかな充実感が漲っている、という言い方もできるだろうか。

 

収まらない創作意欲

 アルバムの制作は、2024年の〈The Eras Tour〉で欧州を巡るツアーの際中にスウェーデンにて行われたという。毎夜3時間以上ものステージをこなす傍らでアルバム制作に取り組んでいたとは驚愕でしかないのだが、本人によればステージを降りてもアドレナリンが駆け巡り、創作意欲が収まらなかったのだという。アルバムのタイトルにもあるように、華やかなステージを降りた時のショーガールの人生、というのが本作の大まかなテーマ。当然ながらショーガール=テイラー自身を指しているわけだが、彼女の空想は果てしなくワイルドに膨らんでいく。

 アルバムと同時にリリースされたリード・シングル“The Fate Of Ophelia”では、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」に登場するヒロインのオフィーリアを取り上げる。ハムレットの妃候補だった彼女は原作では悲劇を迎えるのだが、テイラーはそこに捻りを加え、オフィーリアが救い出されるという逆転ストーリーを歌っている。結婚を前にした自身の近況と重ねた歌詞に、婚約者のアメフト選手トラヴィス・ケルシーを思わせる描写が覗くのも注目だろう。

 また“Elizabeth Taylor”で題材になっているのは、彼女が憧れのロールモデルと公言する大女優エリザベス・テイラーだ。そこでは名声や華やかな社交生活、それらと引き換えに失うものについて、自身の人生を鑑みながら綴られている。おとぎ話のプリンセスを夢見ていた、かつてのテイラーの乙女心はいまも健在と言えそうだ。

 

一貫したヴィジョン

 その一方でキャンセル・カルチャーに警鐘を鳴らす“CANCELLED!”(不仲説のあるブレイク・ライヴリーに密かに手を差し伸べているかのようでも?)のような現代的なトピックにも触れ、腹黒い知人についての“Actually Romantic”は、『Reputation』時代を思わせる、いわゆるリヴェンジ・ソングを投下(一時期交際していたThe 1975のマシュー・ヒーリーのバンドメイト、ジョージ・ダニエルの妻であるチャーリーxcxへの当てつけという見方が濃厚?)。また、“Wood”で飛び出す優等生らしからぬ性的ジョークは、何かと接点の多い後輩サブリナ・カーペンターの影響ではないかと思われる。そのサブリナはアルバムに唯一のゲストとして招かれ、タイトル曲“The Life Of A Showgirl”でデュエットを披露している。

 “Farther Figure”に87年の同名ヒットを引用されたジョージ・マイケルを除けば、アルバム全曲のソングライト/プロデュースのクレジットには彼女とマックス・マーティン、シェルバックの3人の名しか見当たらない。ずっと密な関係にあったジャック・アントノフが関与していないのはやや意外だが、それだけ統一したコンセプトに則ったアルバムということだろう。さまざまなコスチュームを身に着けてショーガールを演じるMVや、マート&マーカスが手掛けた一連のヴィジュアルからも一貫したヴィジョンが窺える。艶やかに着飾っているのは、もしかして自身のウェディングを計画するなかでインスパイアされたのかも、などと勘ぐったり。それこそ彼女のことだから、結婚式にインスパイアされたウェディング・アルバムなんてのを準備していたとしても不思議はないだろう。妻となり、家庭を持った時には、一体どんな歌を届けてくれるのかも、いまから気になって仕方がない。 *村上ひさし

左から、サブリナ・カーペンターの2025年作『Man's Best Friend』(Island)、テイラーが客演したグレイシー・エイブラムスの2024年作『The Secret Of Us』(Interscope)、ナショナルの2023年作『First Two Pages Of Frankenstein』(4AD)

テイラー・スウィフトの近作。
左から、2022年作『Midnights』、2023年作『Speak Now(Taylor's Version)』『1989(Taylor's Version)』、2024年作『The Tortured Poets Departm ent』(すべてRepublic)

 

ショーガールの人生を彩るさまざまな周辺作品を紹介!

STEVIE NICKS 『Stand Back: 1981-2017』 Rhino(2019)

メインストリームでフリートウッド・マックを影響源に挙げる人がまた増えている昨今。テイラーの“The Fate Of Ophelia”はスティーヴィー・ニックスがニューウェイヴ期に残した“Stand Back”などの軽やかさを感じさせる。

 

ABBA 『The Singles: The First Fifty Years』 Polar/ユニバーサル(2024)

フリートウッド・マックと並んで影響源としてよく名の挙がるグループ。サウンド的なエッジよりもソフト・ロック的なマイルドさで整えた今回のテイラーだけに、フックのキャッチーさで推進する軽快な“Opalite”はアバ感強めだ。

 

GEORGE MICHAEL 『Faith』 Epic(1987)

テイラーが“Father Figure”で引用している同名曲はここに収録。温かく優美な原曲のフレーズを活かしながら、かつてのビッグ・マシーンとの主従関係にまつわる物語を連想させるような語り口が彼女らしい。

 

50 CENT 『Get Rich Or Die Tryin'』 Shady/Aftermath/Interscope(2003)

初期のテイラーを想起させる歌い口の“Ruin The Friendship”で過去の思い出と共に名前を挙げられるのが50セント。ミレニアル世代の記憶をくすぐる彼女のソングライティングの巧さはカントリー本来の魅力でもある。

 

PARAMORE 『This Is Why』 Fueled By Ramen/Atlantic/ワーナー(2023)

詞の内容が推測で賑わった“Actually Romantic”は、ピクシーズやウィーザーを思わせるオルタナ調ギター・ロック。オリヴィア・ロドリゴ的でもあり、〈The Eras Tour〉で多くのオープニングに起用したパラモア風でもあり。

 

MOLLY TUTTLE 『So Long Little Miss Sunshine』 Nonesuch(2025)

カントリー界を中心に〈次〉を狙う女性シンガー・ソングライターが次々に出てくる昨今。ブルーグラスの気鋭が越境を図ったら往年のテイラー風の可憐なポップネスが心地良いことに……。チャーリーxcxのカヴァーも披露! *轟ひろみ