ショーガールの人生はドラマよりもドラマティック――時代を創造する華やかなステージを世界中で繰り広げるなか、舞台裏で内面にはどのような感情が渦巻いていたのか?
新たなインスピレーション
ポスト・マローンとの“Fortnight”をはじめとするヒットを繰り出したアルバム『The Tortured Poets Department』から約1年半ぶり。安定のハイペースでテイラー・スウィフトがニューアルバム『The Life Of A Showgirl』を届けてくれた。10月の配信スタート以来、次々と新記録を樹立しているこのアルバムだが、通算12作目となる本作で、彼女はまたもや新たなインスピレーションを見い出し、新たな地平を見つめている。尽きることがない彼女のクリエイティヴィティとヴァイタリティにはいまさらながら恐れ入るしかないが、今作の最大のポイントは、やはりウェディングを前にした彼女の状況、心境ではないかと思う。恐らくこれが独身時代における最後のアルバムとなるはず。人生の大きな節目を目前に、女性としての喜びと膨らむエモーション、そして静かなる躍動感が、アルバムのここそこから聴こえてくるかのようだ。
そんな弾む心を反映するかのように、彼女が今回の共作者/プロデューサーに選んだのは、ポップ界の最高峰クリエイターとして名を馳せるマックス・マーティン、そしてシェルバックだ。ご存知のようにマックス・マーティンはブリトニー・スピアーズからケイティ・ペリー、アリアナ・グランデ、ザ・ウィークエンド、マルーン5までを手掛けるポップの魔術師。彼の愛弟子とも言えるシェルバックも、共に多数のアーティストを手掛けてきたスウェーデンのクリエイターだ。この2人の関わった数々のヒット曲を挙げていくと枚挙にいとまがないのだが、テイラーも彼らとは多数の楽曲を制作してきた。古くは2012年作『Red』からの“We Are Never Ever Getting Back Together”や“I Knew Your Were Trouble”、2014年作『1989』に収録の“Shake It Off”や“Blank Space”“Style”“Bad Blood”“Wildest Dreams”、2017年作『Reputation』収録の“...Ready For It?”やエド・シーラン&フューチャーと共演した“End Game”、“Delicate”などで、彼女がカントリー界からポップ界に移行する過程で大きな役割を果たしてきた存在となる。
そんな2人の鬼才が新作に大きく関わっている、というニュースが報じられるや、多くのファンが彼女最大のポップ・アルバムであり、キャリア史上最大の成功を収めた『1989』のような激ポップ作になるのではないかと想像し、期待を膨らませた。が、蓋を開ければ確かにポップではあるものの、『1989』とは随分と異なる作風とサウンドに彩られている。あそこまで煌びやかなポップ全開ではなく、むしろ控えめで、時にメランコリックだったり、ソフトタッチのポップ/ロック・ソングが多く並んでいる。キャピキャピだった20代の頃とは異なり、30代ならではの落ち着き払った佇まいや思慮深さ、穏やかな充実感が漲っている、という言い方もできるだろうか。
