2026年のフェス開催が発表された際、その出演ラインナップに名を連ねる未知の名前として最初に脚光を浴びたトモーラ。その正体についてネット上でさまざまな憶測が飛び交うなか、デビュー・シングル“RING THE ALARM”のリリースと共に明かされたその実体は、トム・ローランズ(ケミカル・ブラザーズ)とオーロラが結成したユニットの名前だった。この4月には〈コーチェラ〉でステージ・デビューを果たしたばかりだが、実は結成発表の前から先述の“RING THE ALARM”は最近のケミカル・ブラザーズのDJセットに密かに組み込まれていたという。
双方のキャリアについて改めて長々と説明する必要はないだろう。もはや大御所の域に達しているケミカル・ブラザーズでダンス・ミュージックを追求する一方、近年は単独でケリー・リー・オーウェンスやケイ・テンペスト、セイント・エティエンヌらのプロデュースも手掛けているトム。片や神秘的なヴォーカルの存在感によってカリスマ的な支持を集めているノルウェーのヴォーカリスト、オーロラ。もともと両者の縁が生まれたきっかけは、2016年の〈グラストンベリー〉に出演するオーロラのパフォーマンスにトムが深く魅了されたことだったという。共作を望んだトムがオーロラにメールでコンタクトを取り、一方のオーロラもケミカル・ブラザーズの手掛けた『Hanna』のサントラに感銘を受けて彼らの音楽に聴き親しんでいたという。その後ケミカルのグラミー受賞作『No Geography』(2019年)で3曲にオーロラがフィーチャーされ(彼女はケミカルの回顧録『Paused In Cosmic Reflection』にも協力)、逆にオーロラの最新作『What Happened To The Heart?』(2024年)にはトムがプロデューサーとして参加。互いの敬意に基づいた刺激的なコラボを繰り返して交流を深めた結果、今回のユニット結成にまで繋がったというわけだ。
「私たちはトモーラを単なる2人の集合ではなく、ひとつのバンドとして表現したかった。音楽的感覚がそのまま形になった存在です」とはユニットとしてのコメント。とはいえ、両者のクリエイションはアルバムなどの着地点を見据えることなくスタートしたそうだ。スタジオで顔を合わせて、トムが言うところの〈自由で創造的で、素晴らしいものを作る瞬間〉を共に重ねていくなかで、それらの創造物は徐々にアルバムのスケールを成形していき、ここにファースト・アルバム『COME CLOSER』が完成した。

アルバムは全曲がトムとオーロラの共作で、“IN A MINUTE”のみオーロラのライヴ・メンバーを務めるアマリー・ホルト・クライヴェもソングライターに名を連ねている(彼女は先日の〈コーチェラ〉のステージにも登場していて、恐らくはトモーラのライヴ・セットでも欠かせない存在になるのだろう)。エレクトロとビッグ・ビートをフリーキーかつブリーピーに折衷した先行曲の“RING THE ALARM”をはじめ、神秘的でシアトリカルなヴォーカルを荘厳な立体感で包み込むような“COME CLOSER”、ダビーなトリップ・ホップ風味の“THE THING”、野太いベースラインと耳残りするスキャットに牽引されるユーロ・ポップ調の“SOMEWHERE ELSE”と、収録曲のスタイルはさまざま。サウンドそのものは双方の持ち味が無理なく融合した印象で、大袈裟な化学反応というよりは両者の繰り広げてきたコラボのエッセンスを濃縮還元してよりナチュラルに放出したような出来映えと言えるだろう。そのなかでトムのサウンドメイクはよりシンプルでプリミティヴなものに磨かれていて、それゆえにオーロラのオーガニックな存在感もまったく損なわれることなく実に伸びやかだ。
〈コーチェラ〉以降も各地の主要フェスに出演を控えながら、アルバムを作り終えた後もまだまだ楽曲制作を続けているというトモーラ。さらなる動きも予感しつつ、まずは今夏の〈フジロック〉での初来日を楽しみにしておきたい。
トモーラ
ケミカル・ブラザーズで活躍するトム・ローランズと、ノルウェー出身のオーロラによるプロジェクト。オーロラがケミカル・ブラザーズの2019年作『No Geography』に、トムがオーロラの2024年作『What Happened To The Heart?』に参加するなどして関係を深め、2025年12月に初音源となる“RING THE ALARM”を発表する。今年に入って〈コーチェラ〉での初ステージも話題を集めるなか、ファースト・アルバム『COME CLOSER』(Fontana/ユニバーサル)をリリースしたばかり。