ケミカル・ブラザーズの『DIg Your Own Hole』が25周年!
夏にケミカル・ブラザーズの作品が出る……と聞くと、往年のファンならどこかのフェスに来日でもするのかと思ってしまいそうになるのではないか。〈フジロック〉にも〈サマソニ〉にもたびたびヘッドライナー級で出演してきただけあって、それほど日本の夏フェスシーズンに彼らの存在感はよく似合っていた。そもそも彼らは苗場での初開催となる99年に〈フジロック〉に初登場したわけだが、その時点で日本においても大物ロック・バンドに比肩する代表的な海外アクトと目されていたし、そうなるきっかけとなった作品こそが99年の3作目『Surrender』であり、97年の2作目『Dig Your Own Hole』であるのは確かだろう。2019年に『Surrender』の20周年記念盤が出たのに続き、このたびは『Dig Your Own Hole』が25周年を迎えて記念エディションが発表された。
THE CHEMICAL BROTHERS 『Dig Your Own Hole(25th Anniversary Edition)』 Virgin/ユニバーサル(2022)
そもそも95年のファースト・アルバム『Exit Planet Dust』の時点で成功を収めたトム・ローランズとエド・シモンズだったが、2人はその勢いを逃さぬようにすぐ次の制作に取り掛かっていた。まずはクラブ・プレイのための〈Electronic Battle Weapon〉として“It Doesn’t Matter”と“Don’t Stop The Rock”(もともと“I Love Tekno”という仮題だった)が96年6月にリリースする。その後に同じマンチェスター出身のノエル・ギャラガーと出会ったことで、旬なコラボレーションが実現する。当時オアシスで飛ぶ鳥を落とす勢いだったノエルはトラックを聴いた興奮から一晩で歌詞を書き上げたとも言われている(が、実際は歌メロも含めてオアシスの初期未発表曲“Comin’ On Strong”を流用したものである)。そうして生まれた“Setting Sun”は同年9月にシングル・リリースされ、ケミカルに初の全英チャートNo.1を授けることになった。ビートルズ“Tomorrow Never Knows”の影響を明らかに受けたこの曲のヒットは、ブリット・ポップと並走してきたケミカル・ブラザーズがロック・ファンの支持を掴むダメ押しの一曲だったのかもしれない。
アルバムへの道筋が整うなか、97年初頭にはベス・オートンをフィーチャーしたサイケなダウンテンポの“Where Do I Begin”をプロモ・カット。そして97年3月にリリースされたのが“Block Rockin’ Beats”だ。バーナード・パーディ“Changes”の激しいドラミングをループし、スクーリーDの“Gucci Again”から印象的なセリフをサンプリングした、この強烈無比なダンス・トラックはデュオにとって2つめの全英1位シングルとなった。
それら2枚のNo.1ヒットが起爆剤になったのは当然で、97年4月にリリースされた『Dig Your Own Hole』も易々と全英チャートを制して世界中で大ヒットを記録(全米でも現時点で最高の14位まで上昇している)。彼らの人気はここで確固たるものになったのだ。なお、以降もアルバムからは、ヒップホップの始祖とされるDJクール・ハークのスピーチや、キース・マレイ“This That Shit”のサンプリングをあしらったノイジーでサイケな疾走トラック“Elektrobank”がシングル・カット。他にもアブストラクトな“Piku”やフリーキーなブレイクビーツが暴れ回る“Get Up On It Like This”などが収録され、ラストには“Setting Sun”の情緒を改めて匂わせたサイケデリックでサイボトロニックな“The Private Psychedelic Reel”を配置。ここではマーキュリー・レヴのジョナサン・ドナヒューがクラリネットの演奏で参加している。
なお、マーキュリー・プライズにもノミネートされたこのアルバムは、98年のグラミーにて〈最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム〉にノミネートされ、“Block Rockin’ Beats”は見事に〈最優秀ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス〉部門を受賞している。いまでは不思議にも思える部門へのエントリーながら、当時ファットボーイ・スリムやプロディジーらと並ぶビッグ・ビートの立役者にとっては、ダンス・ミュージック+ロックの融合というイメージ作りは非常に有効だったのだろう。
なお、2枚組仕様で登場したこのたびの〈25th Anniversary Edition〉は、Disc-2に別ミックスとデモ、未発表トラックを計5曲収録。96年録音の未発表曲“Cylinders”は幻想的なアンビエント風味でおもしろいし、“Elektrobank”は粗削りなかっこいいデモを開陳。“It Doesn’t Matter”と“I Love Tekno”(“Don’t Stop The Rock”)、“Where Do I Begin”の3曲もプリミティヴな別ミックスで収録され、これは聴き比べ必至だ。
そんなこんなで夏に届いたケミカル・ブラザーズ。2021年には久々の新曲“The Darkness That You Fear”もリリースしてくれていたが、次なる動きもそろそろ期待してみたくなる頃合いじゃないだろうか。
左から、スクーリーDの89年作『Am I Black Enough For You?』(Jive)、オアシスの95年作『(What’s The Story) Morning Glory?』(Creation)、ベス・オートンの96年作『Trailer Park』(Heavenly)。