2000年代中盤の音楽シーンと呼応した多様なリズムアプローチ
そんな背景を踏まえて、バンドが音楽的な面で特に取り組んだのはリズムの強化であり、その象徴が1曲目の“暗号のワルツ”と、6曲目の“ブルートレイン”。2005年11月にシングルとしてリリースされた“ブルートレイン”は、2本のギターとベースがLRで掛け合う中でドラムパターンが変化していき、カッティングもアルペジオもキメも織り交ぜた1分近い構築的なイントロが最大の特徴で、こうした裏拍を意識したアプローチはアルバムの各所に散りばめられている。
さらに、8分の6拍子で始まって、途中からドラムのみ4分の4拍子になってポリリズムになり、サビで全体が4分の4拍子に変化する展開が切迫感を生む“暗号のワルツ”を1曲目に置くことで、バンドのモードを明確に提示した。ギターのループフレーズを軸としながら、途中で拍の表と裏が入れ替わる“ブラックアウト”、伊地知潔による間奏のブレイクビーツが印象的な“路地裏のうさぎ”、当時のアジカンとしては珍しい、跳ねたリズムを用いた“真冬のダンス”など、アルバムを通じてリズムに対する意欲的な挑戦に溢れている。
この変化は2000年代中盤の国内外の音楽シーンとも関連があると言えるだろう。後藤にとって大きなインスピレーション源になったNUMBER GIRL(〈ファンクラブ〉はNUMBER GIRLの自主企画のタイトルでもある)の向井秀徳はバンド解散後、2003年にZAZEN BOYSを結成し、ヒップホップやフリージャズなども咀嚼した異形のリズムセクションを形成。また当時はエモやポストロックの人気が高まり、ポリリズムや変拍子が浸透していった時期でもある。後に後藤がプロデュースすることになるチャットモンチーが、『ファンクラブ』と同じ2006年にリリースした“シャングリラ”で変拍子を用いて注目を集めたのは、こうした流れとも無関係ではないように思う。
一方、海外ではロックンロールリバイバルの流れを経て、UKでのポストパンクリバイバルが本格化。ブロック・パーティーやフランツ・フェルディナンドといったダンサブルかつ構築的なリズムを持ち味とするバンドが増えた時期だった。常に海外のシーンを意識し、2004年の〈NANO-MUGEN FES.〉で初めて海外からのアクト(UKからはザ・クリブスが出演)を呼んでいたことも踏まえて、やはり『ファンクラブ』にはこの時代のムードが反映されていたように思う。
ちなみに、“ブルートレイン”は横浜の市営地下鉄がモチーフだと思われるが、前年にはくるりが京浜急行をモチーフにした“赤い電車”をリリースしている。当時のくるりは『NIKKI』でのロックンロールモードから、クラシックに傾倒した『ワルツを踊れ Tanz Walzer』への移行期。それ以前からジャンルを横断した独自の路線を突き進んでいたため、当時のアジカンとは接点が薄かったように思う。しかし、ともに今年結成30周年を迎え、同い年でもある両バンドのフロントマン、後藤と岸田繁は近年急接近し、共演を繰り返していることを思えば、“ブルートレイン”はやはり“赤い電車”への、くるりへのラブレターだったのかもしれない。