重苦しいムードを抱え、切実な想いを吐露した歌詞
歌詞に関しては前述の通り、当時の後藤が抱えていた重苦しいムードが直接的に表れている。“暗号のワルツ”では〈君に伝うかな/君に伝うわけはないよな〉、“ワールドアパート”では〈君も全部なくして/分かったよ〉と歌い、『君繋ファイブエム』からの2年半で感じた〈君〉との断絶が歌われていて、“ワールドアパート”での吉野寿(eastern youth)ばりの絶唱も当時の閉塞感の表れのように聴こえる。
昨年後藤のレーベルonly in dreamsからアルバムをリリースしたyubioriが、自主イベントのタイトルに使っている〈鈍る皮膚感覚/僕を忘れないでよ〉というフレーズを含む“ブラックアウト”を経て、“桜草”はアルバムの中で最も内省的な1曲であり、この曲の歌詞がモノクロのアートワークの直接的なインスピレーション源になっていると考えられる。
そんな重苦しいムードを抱えた先で、アルバムのハイライトとなるのが9曲目の“センスレス”。この年の後半には初のアリーナツアーを開催しているように、ライブ会場の規模に合わせて楽曲のスケールも広がり、この曲はまさに大バコ仕様のダンサブルなナンバーと言える。ブレイクと8分の6拍子への変化を挟み、最後はパンキッシュに駆け抜けていく曲構成が抜群の高揚感を生む、まさにライブアンセムだ。後藤の歌詞も前半では〈色を失って黒くなるだけ〉と諦念を覗かせるが、曲の展開に合わせて、〈それでも想いを繋いでよ〉と願い、最後に〈僕はずっと/想いをそっと此処で歌うから〉〈心の奥の闇に灯を〉と歌い上げるのはやはり非常に感動的だ。
それでもアルバムはまだここで終わらず、ドビュッシーの“月の光”を引用した“月光”を経て、ラストを締めくくるのはメランコリックな“タイトロープ”。三線をもとにしたというギターのチューニングもユニークな曲だが、〈どうか投げ出さないで/そっと心に繋いで〉〈見失った此処が始まりだよね〉と、切実な想いを吐露してアルバムが終わっていく。
曲順通りに聴くことによって、後藤の心情の変化が伝わり、決して問題が解決されるわけではないが、最後まで心のモヤを抱え続けるからこそ、このアルバムはいつまでも聴き手の心に余韻を残し続ける作品になっているのだと思う。
再現ツアーが開催される意味
最後に、このアルバムが2026年に再現されることの意味を考えてみよう。再現ツアーのタイトルは〈Midage Fanclub〉で、〈Midage〉は〈中年〉の意味。今年の12月で50歳となる後藤がユーモアを込めてつけたタイトルだと思うが、『ファンクラブ』のリリースから20年を経て、年齢を重ね、メンタル的には逞しさを増し、このアルバムの持つ重苦しさを俯瞰的に楽しめるようになっているはず。しかし、社会の重苦しさという意味では、2026年という年はアジカンが活動をしてきた30年の中で、最も厳しい状況であり、〈君〉との断絶が最も進んでいる年だと言ってもいいかもしれない。
最新シングルの“スキンズ”はアニメの主題歌でもあるが、そこに反戦の意思を込めずにはいられない、現在はそんな時代である。だからこそ、『ファンクラブ』の持つ重苦しさをバンドとオーディエンスでシェアし、コミュニティとしての結びつきを強くすることには大きな意義があるはずだ。〈どうか投げ出さないで/そっと心に繋いで〉〈見失った此処が始まりだよね〉。この言葉の意味をもう一度捉え直し、未来へと繋げていくために。〈Midage Fanclub〉はその絶好の機会になるのではないだろうか。