先日開催された〈MUSIC AWARDS JAPAN 2026〉で最優秀楽曲賞など最多8部門(ライブスタッフカテゴリーも含む)を受賞したサカナクション。2025年の“怪獣”のヒットに続き、今年に入ると“夜の踊り子”(2012年)を使ったショート動画がネットミーム化したことで同曲がリバイバルヒットするなど、サカナクションとその音楽に改めて注目が集まっている。

そんなサカナクションのアルバム8作品がアナログ化され、第1弾の4作品に続き、残る4作品が第2弾として7月22日(水)にリリースされる。これにあわせて、音楽評論家・小野島大の力も借り、彼らのアルバム8枚をレビューした。 *Mikiki編集部


 

サカナクション 『GO TO THE FUTURE』 BabeStar/ビクター(2007)

ぜひ2026年現在のサカナクションを意識しながら、本作を聴き返してみてほしい。山口一郎が今も頻繁に口にしている〈マジョリティの中のマイノリティ〉という言葉が、この1stアルバムの時点でしっかりと体現されていることに気づくはずだ。

深いディレイを効かせた眩いシンセのイントロが耳を引く“三日月サンセット”、スターダスト“Music Sounds Better With You”をオマージュした4つ打ちのクラブサウンドに仕上げられた“インナーワールド”と冒頭からディープな趣向を凝らした楽曲が並ぶ。生楽器のセッション感とフォークトロニカなムードが見事に同居した“あめふら”や、弾き語りでのアコースティック曲であった原型から3拍子のバンドサウンドへと大きく一新された“GO TO THE FUTURE”(2015年のカップリング&リミックス集『懐かしい月は新しい月 〜Coupling & Remix works〜』には原型のバージョンでの再録音源を収録)、クラブミュージックにおける反復の快楽を感じさせながら、山口が愛する釣りと自らの内面を照らし合わせた“白波トップウォーター”など、より多くの大衆へ届けるための試行錯誤と音楽的な挑戦がどの楽曲にも刻まれている。

当時の彼らのスキルや表現に合わせるように、全曲を通してBPMが120台に統一されているのも興味深い。日常のベーシックなテンポ(歩行速度がBPM 120ほど)は守りつつ、テクノ、ハウス、ロック、フォークなどをカスタマイズして独自の歩き方を導き出す。サカナクション流の〈マジョリティの中のマイノリティ〉はここで生まれ、今やその言葉が指す範囲は日本全土へと広がっている。 *小田

 

サカナクション 『NIGHT FISHING』 BabeStar/ビクター(2008)

2009年、3rdアルバム『シンシロ』をリリースした際のインタビューで山口は、上京したことで客観的になり、「エンターテイメント・ミュージックとアンダーグラウンド・ミュージックの真ん中――真ん中のなかでも一番にならなきゃいけないって思った」と明かしている。その発言から、サカナクションが〈MUSIC AWARDS JAPAN 2026〉授賞式で多数の賞を受賞していたこと、そして羊文学の塩塚モエカが「オルタナティブがなんなのか、自分たちがやっていることがなんなのか、わからないまま頑張ってきた」と壇上で語っていたことを思い出した。両者ともオルタナティブでありポップ、ポップでありオルタナティブ、という稀有なあり方を保ちつづけている。

翻ってこの2ndアルバム『NIGHT FISHING』は、上京前に札幌でレコーディングされており、「外を意識せずに、ただ好きなことをやろう」という意志で制作された。二項対立的に言えば、〈アンダーグラウンド〉や〈オルタナティブ〉に寄っている。前作よりテクノなどエレクトロニック/ダンスミュージックの要素が全面的に展開されているが、その音楽性も1stアルバムでやれなかったことをやっただけ、雑食なリスナーなのでたまたま電子音楽にハマっているだけ、というのが実感だそうだ。

時代背景としては、クリックハウスのようなミニマルなダンスミュージックの流れがあり、LCDサウンドシステムのようなロックと電子音楽を掛け合わせたバンドも活躍しはじめた頃。さらに2008年は、ジャスティスらフレンチエレクトロやクラクソンズなどニューレイヴ勢、フレンドリー・ファイアーズらが注目を集めた。サカナクションはといえば、アンダーワールドの音楽や電子音楽期のくるりなどを受け継ぐ、テクノ色が濃いシンセサイザーのシーケンスに16ビートの生演奏を合わせていくスタイルをここで確立している。しかし、のちに大量発生する4つ打ち系邦ロックバンドと彼らが異なるのは、“ワード”“サンプル”などに顕著だが、聴く者の内面に深く問いかける内省的なダンスロックである点だろう。

それだけではない。“マレーシア32”に至っては完全にテクノナンバーだし、ビートレスな前半からポストロック、ファンクへと遷移していく“ティーンエイジ”はサカナクション流プログレッシブロックといった風合い。そして忘れてはいけないのは、山口らしい強い旋律があること。ピアノの伴奏がリリカルでLCDの“New York, I Love You But You're Bringing Me Down”を思わせる“アムスフィッシュ”などで聴けるように、歌心や歌謡性が彼らを唯一無二のバンドたらしめている。極めつきは、クラシックの曲のような壮大な展開を持った“ナイトフィッシングイズグッド”。同曲の後半では、高揚感と一体感に満ちた合唱が突如挿入される。クイーンの“Bohemian Rhapsody”から着想を得たのだろうが、ここで彼らは代替不可能なシグネチャーを獲得したのだ。 *天野