
サカナクションのひさびさの新曲“怪獣”が話題だ。アニメ主題歌の枠を超え、配信リリース後から楽曲の評判は高まるばかりで、その後もミュージックビデオや最新アーティストフォトの公開などで注目を浴び続けている。そんな2025年を代表する曲になりつつある“怪獣”のサウンドや歌詞、背景について、編集者/ライターの澤田大輔に綴ってもらった。 *Mikiki編集部
歌を軸にした復帰曲の独自性と普遍性
TVアニメ「チ。 ―地球の運動について―」の主題歌として昨年に公開され、2025年2月20日に配信リリースされたサカナクションの楽曲“怪獣”は、彼らにとって実に3年ぶりの新曲となる。前作にあたる“ショック!”(と、同曲も収めたアルバム『アダプト』)から今作に至るまでの間には、中心人物である山口一郎の病気療養とバンドのライブ活動休止があった。その困難をくぐり抜けて2024年にライブを再開した彼らが、ついに世に送り出す復帰作として“怪獣”はとても大きな意味を持つ作品だろう。
一聴して感じるのは、これが何よりも〈歌〉の作品であるということだ。サカナクションらしいダイナミックでフックに富んだメロディーと言葉がパワフルかつ明快な形で耳に飛び込み、心身をジャックする。バンドアンサンブルやプロダクションは、どこまでもその歌を支える機能を果たすように構築されている印象を受ける。
とは言えサウンドはシンプルに成立させたものではなく、細やかな意匠を凝らし、緻密に編まれていることがわかる。ピアノをフィーチャーし、エレクトロニックなアンビエンスを敷いたパートから、深い残響をまとった冷徹な質感のギターが飛び交うパートへと鮮やかに転換し、やがて両者は合流する。近年のJ-POPのひとつの傾向として見てとれるような複雑な展開を織り込むことはせずに、構成の妙とディテールへの効果的な執心によって、多様な場面と深い奥行き、前へ前へと進むドライブ感を作り出しているのが凄い。隙間を活かし、音の密度にメリハリをつけたプロダクションから生まれるグルーヴも見事というほかない。
ここで聴くことができるネオサイケに通じるような音像にフォーカスして、現行のバンドやシーンとも共通するある種のモードを見ることはできるかもしれない。しかし、本作は既存の文脈への接近や何がしかのレファレンスのもとに作られた作品のようには感じられないし、そのような読み取りはそう重要ではないように思える。“ショック!”でアフロビートを導入し、トーキング・ヘッズを引用したり、“忘れられないの”でシティポップリバイバルへのアンサーを示したりするようなアプローチとはまったく異なる立脚点から作り上げられた楽曲なのではないだろうか。
つまりは歌を軸に据え、歌を引き立てるサウンドを模索した末に浮かび上がってきたのがこのサウンドだった――実際の制作背景はわからないが、筆者にはそのように成立した音楽に感じられる。かつ、それゆえに“怪獣”はこれまで以上にオリジナルな佇まいと普遍的なポピュラリティーを獲得することに成功したように思えるのだ。