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「玉置浩二 with 故郷楽団 10周年 Concert Tour 2025 〜blue eggplant field」
類例のない、一枚の秀逸な絵画の誕生にも似て。

 ソプラノサックスの音色が日の出を告げ、トオミヨウのカウントから、序曲“あこがれ”のインストゥルメンタルが流れ始める。ストリングスの調べが心地よい風のように耳をかすめ、スティールギターが牧歌的な土の香りを添える。陽光の温もりの中、パーカッションとドラムが大地を鳴らし、フルートが煌めきを運ぶ。故郷楽団らしい、自然の情景を想起させる穏やかな幕開けだ。

 ステージの中央には一本のギター。ナイロン弦の青いBuscarinoが静かに佇むその姿は、まるで主役の登場を今か今かと待ち望んでいるかのようにも見える。

玉置浩二 『玉置浩二 with 故郷楽団 10周年 Concert Tour 2025 〜blue eggplant field』 コロムビア(2026)

 改めて本作の表題を読み返す。昨年11月12日、東京ガーデンシアターで開催された千秋楽公演を収録した「玉置浩二 with 故郷楽団 10周年Concert Tour 2025 ~blue eggplant field」。ツアータイトルは、1993年発表のソロ3rdアルバム『カリント工場の煙突の上に』収録曲“青い“なす”畑”の英訳。

 序曲への拍手がトーンを変えると、ステージに現れた玉置がギターを手にする。「思われ」「慕われ」「覚悟した」――タイトル曲の“青い“なす”畑”を、ふくよかな音色を爪弾きながら、景色を描くように丁寧に歌っていく。照明を浴びたギターが、澄み渡った空を映したかのような色合いに見えてくるのが不思議だ。

 ギターを持ち替え、“からっぽの心で”に続く。玉置と秋山のギターに、武嶋の柔らかなサックスの音色が重なり、楽曲に穏やかな陰影を与えていく。

 納得したような表情を浮かべた玉置が、♪Na Na Na~のスキャットから“それ以外に何がある”へ。前年までの編成にドラムスが加わった意味合いも、このあたりで自然と腑に落ちる。

 主軸はもちろん玉置の歌だ。しかし同時に、その声もまた楽器のひとつとなって、故郷楽団として、サウンドに厚みと深みを与えていく。誰か一人が際立つのではなく、それぞれの色彩が役割を持ちながら、一つの景色を描いていくのだ。

 続く“太陽さん”。水音やノイズ混じりの機械音が妖しく響き、月蝕を想わせる照明がステージを包む中、中北が打つ太鼓の皮鳴りが原始を想起させる。松原の太いビートと千ヶ崎のうねるベース、そこへ玉置の歌が生命のパワーをみなぎらせていく。

 アコースティックギターを手に“古今東西”へ。吉田のヴァイオリンソロが鋭く切り込むと、門田のソプラノサックスがそれに応える。エキサイティングなインプロビゼーションの応酬に、玉置も思わず笑みを浮かべる。再び歌が入り、今度は武嶋のサックスが空間に遠近感を加えていく。客席は大きな喝采に包まれた。

 続く“最高でしょ?”では、千ヶ崎の太いベースラインが楽曲の官能を支える。トオミヨウのエレキピアノと秋山のギターが繊細かつ都会的なサウンドを展開する一方で、16人編成ならではのゴージャスな音像が押し寄せる。リズムチェンジすると玉置が妖しく腰を揺らし、客席の熱も一気に高まっていく。♪一人で遊ばないで……という囁きから始まるドラムソロも、どこか悪戯っぽい。

 満場の喝采に玉置がエアハグで応える。男性客の「最高だったぞぉ!」の声が場内に響き、温かな笑いが広がった。

 ダブルカルテットのアンサンブルから“コール”へ。チェロの柔らかな響きと月光を想わせる照明が、夜想的な空気を醸し出す。

 ♪きみのあたたかい手が必要さ――。歌い上げたロングトーンに聴衆が酔いしれる中、玉置は静かにステージを後にする。

 インターミッション後、故郷楽団による“Instrumental”が奏でられ、ステージに再び景色が描かれていく。タイトルの“青い“なす”畑”をモチーフに、トオミヨウがこのツアーのために書き下ろした楽曲だ。

 ピアノの前奏とともに玉置が登場すると、会場から温かい拍手が起きる。“嘲笑”が始まると、集中の静寂が帳のように降り、この曲への待望感が自然と伝わってくる。

 祈りの鐘の音が鳴り、“しあわせのランプ”。♪しあわせになるために生まれてきたんだから―― 再び青いBuscarinoを手に、全ての人の幸せを願う。

 “サーチライト”のイントロで拍手が起きると、続くヒット曲に観客の集中力がぐっと高まったように見える。ストリングスとフルート2本のアンサンブルが活きた、温かさが溢れるアレンジにのせて、玉置がゆったりと歌い上げていく。

 安全地帯の代表曲“じれったい”で一気に空気が変わる。“好きさ”へとつながる秋山のギターソロは、本公演の大きな見どころのひとつと言っても過言ではない。故郷楽団もロックのモードへとシフトし、玉置の歌を力強く支えながら、安全地帯への深いリスペクトを響かせる。

 いよいよ終盤にさしかかり、“JUNK LAND”では観客のボルテージは最高潮へ。ストリングスメンバーも立ち上がり、頭上で弓を振りながら手拍子を煽る。コールアンドレスポンスで熱を高めたあと、玉置が聴かせるロングトーンは圧巻だ。

 故郷楽団の音楽の旅は、見事に10周年を迎えた。2公演同時発売という秀逸な記録を刻んでくれた。“JUNK LAND”から、代表曲“田園”“メロディー”、そして最新曲“ファンファーレ”へと至る流れは、アンコールの違いも含めて、両作品を比較しながら味わう楽しみもある。

 終演後の光景にも、優しさと美しさが宿る。メンバーを送り出したあと、玉置は舞台裏を支えるスタッフ陣へ指先でエールを送り、一台一台の楽器へ感謝を込めるように挨拶を重ねていく。なかでも、〈相棒〉Buscarinoを愛おしそうに撫でる姿は、ファンにはおなじみの儀式だ。

 一切MCなしで駆け抜けるステージ。言葉ではなく、音楽ですべてを表現する。自由自在な彩りで、類例のない一枚の秀逸な絵画が完成していく。その瞬間を見届けるような、満ち足りた余韻を残してくれる映像記録だ。

 世界の平和と、目の前にいる一人ひとりの幸せを切に祈る玉置の歌声は、明日への希望となる。

 彼の歌はどこにもいかない。〈愛〉は、ここにある。 *末次安里

 


玉置浩二(たまき・こうじ)
北海道出身のシンガーソングライター、俳優。1982年にバンド〈安全地帯〉としてデビュー。“ワインレッドの心”“恋の予感”“悲しみにさよなら”など、数々のヒット曲で音楽シーンを席巻。ソロ活動では作詞も手がけ、“田園”“メロディー”をはじめ、多くの名曲を生み出した。2015年には国内外のオーケストラと共演するコンサートを実施し、以降シリーズ化して継続的にツアーを開催している。2016年にはバルカン特別編成交響楽団に管弦楽作品“歓喜の歌”を謹呈。2022年にはソロデビュー35周年、安全地帯デビュー40周年を迎えた。

 


LIVE INFORMATION
玉置浩二 with 故郷楽団 Concert Tour 2026 ファンファーレ!!

2026年8月23日(日)埼玉・大宮ソニックシティ 大ホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年8月26日(水)宮城・仙台サンプラザホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年8月27日(木)宮城・仙台サンプラザホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年9月2日(水)北海道・旭川市民文化会館 大ホール
開場/開演:17:30/18:00

2026年9月3日(木)北海道・旭川市民文化会館 大ホール
開場/開演:17:30/18:00

2026年9月5日(土)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
開場/開演:16:30/17:30

2026年9月6日(日)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
開場/開演:15:00/16:00

2026年9月9日(水)静岡・アクトシティ浜松 大ホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年9月10日(木)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年9月13日(日)石川・金沢歌劇座
開場/開演:16:30/17:30

2026年9月15日(火)大阪・フェスティバルホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年9月16日(水)大阪・フェスティバルホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年9月20日(日)新潟・新潟県民会館 大ホール
開場/開演:16:30/17:30

2026年9月23日(水・祝)群馬・高崎芸術劇場 大劇場
開場/開演:16:30/17:30

2026年9月28日(月)岡山・岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
開場/開演:17:00/18:00

2026年10月1日(木)福岡・福岡サンパレス
開場/開演:17:00/18:00

2026年10月2日(金)福岡・福岡サンパレス
開場/開演:17:00/18:00

2026年10月4日(日)長崎・長崎ブリックホール
開場/開演:16:30/17:30

2026年10月9日(金)鳥取・米子コンベンションセンター BiG SHiP
開場/開演:17:00/18:00

2026年10月11日(日)広島・広島文化学園HBGホール
開場/開演:16:30/17:30

2026年10月12日(月・祝)広島・広島文化学園HBGホール
開場/開演:15:00/16:00

2026年10月15日(木)東京・TACHIKAWA STAGE GARDEN
開場/開演:17:00/18:00

2026年10月19日(月)京都・ロームシアター京都 メインホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年10月21日(水)熊本・熊本城ホール メインホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年10月24日(土)大阪・フェニーチェ堺 大ホール
開場/開演:16:30/17:30

2026年10月25日(日)大阪・フェニーチェ堺 大ホール
開場/開演:15:00/16:00

2026年10月29日(木)兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年10月30日(金)兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
開場/開演:17:00/18:00

2026年11月4日(水)東京・日本武道館
開場/開演:17:00/18:00

2026年11月5日(木)東京・日本武道館
開場17:00/開演18:00

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