音楽的な成長
アーロンといえば、シャロン・ヴァン・エッテンからノア・カーン、ガール・イン・レッド、マムフォード&サンズやエド・シーランまでを手掛け、なかでももっともよく知られているのがテイラー・スウィフトのアメリカーナ/フォーク寄り作品『Forklore』や『Evermore』での大きな貢献だろう。グレイシー作品に関しても、以前からアコースティック楽器を軸にフォーク・ポップな音作りをしてきたが、本作においては弦楽器を中心にしたオーケストラ演奏、フィドルやペダルスティールなどのルーツ系楽器を用いるなど、より野心的かつ拡張的な音楽志向を窺わせる。グレイシーが本作でもっとも重視したのが、単なる数字的な成功ではなく、音楽的な成長だったからという気がする。その顕著な一例が、今年5月に公表されたアルバムからのリード・シングル“Hit The Wall”ではないかと思う。
「“Hit The Wall”をファースト・シングルにしたのは、アルバム中で比較的ポップな曲だからではなく、このアルバムを作っていた時の私の状態を投影していると感じたから」と彼女は明かす。ヒット狙いのポップソングではなく、本作『Daughter From Hell』の幕開けに相応しい楽曲であり、アルバムの指針となる方向性を決定した曲だったという。そこで歌われているのは、精神的な限界に追い込まれても、前進するためには、問題から逃げずに真正面から向き合い、壁を打破することの重要性。自身の人間関係やメンタル面での苦悩を歌うことで乗り越える、という彼女自身のプロセスであり、突破口であったという。自身の日常体験を歌うスタイルは、以前から彼女の得意とするところだが、本作では自身の深層心理にいっそう踏み込んだと言えるだろうか。
それに続くセカンド・シングル“Look At My Life”では、文字通り自身のこれまでの人生を振り返り、いま一度精査する。シンガーとして大成功を収めた激動の数年を経て、いったん立ち止まり、自身の体験や恋愛などを振り返り、いまどう感じるのかを考察。まるで自身の日記帳を読み返しているかのような楽曲が本作には多く並んでいる。