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地獄からの娘

 しかも恋愛や友情に留まらない。なかでももっとも印象的かつ、ある意味で衝撃なのが、アルバムのタイトルでもある“Daughter From Hell”という曲だ。直訳すれば〈地獄からの娘〉なのだが、意訳するなら〈やっかいな娘〉だったり〈手こずらせる最悪の娘〉といったニュアンスだろうか。清楚で礼儀正しい現在の彼女からは想像もつかないのだが、内気で人付き合いが苦手だったため、成長過程では親を相当困らせたのだとか。ここで歌われている〈あなた〉とは母のこと。反抗期や引きこもり、心を閉ざしていた時期があったリスナーにとっては、特に共感できる曲ではないだろうか。

 アルバムにはアーロンをはじめ、マーカス・マムフォード(マムフォード&サンズ)、ジャスティン・ヴァーノン、ダン・二グロ、オードリー・ホバートらさまざまなミュージシャンが協力しているが、嬉しいサプライズでもあったのが、恋人のポール・メスカルの共作者としての参加だろう。あえて隠さず、自身の現在地をしっかりと音楽に投影しようとする姿勢が潔くもあり、何とも頼もしい。

 筆者は昨年4月の来日時に彼女とインタビューを行っているのだが、その時はとにかく弾丸トーク炸裂で、いかにもZ世代という印象だった。が同時に、頭脳明晰で、人あたりがよくて、謙虚という言葉がこれほどピッタリ似合う人もいない、と感心させられたのを覚えている。現在26歳のグレイシー。以前に発表した曲の中には、自分の思いをズケズケとぶつけるあまり、相手を傷つけたかもしれないと後悔している曲もあるのだとか。本作では誰も傷つかないよう、特に気を付けたそうだ。より寛大な心を持てる人になりたいとも語っている。そういった自身の変化や成長も本作からは窺えるに違いない。あえて〈地獄からの娘〉と呼ぶ彼女。ミュージシャンとしての成長のみならず、人間的な成長も見えてくるはずだ。

関連盤を紹介。
左から、グレイシー・エイブラムスの2023年作『Good Riddance』、2024年作『The Secret Of Us』、グレイシーが参加したセレーナ・ゴメス&ベニ・ブランコの2025年作『I Said I Love You First』(すべてInterscope)、マムフォード&サンズの2026年作『Prizefighter』(Gentlemen Of The Road/Island)、ナショナルの2024年のライヴ盤『Rome』(4AD)、ボン・イヴェールの編集盤『Volumes One: Selections From Music Concerts 2019-2023 Bon Iver 6 Piece Band』(Jagjaguwar)、ダン・ニグロが手掛けたオリヴィア・ロドリゴの2026年作『you seem pretty sad for a girl so in love』(Geffen)、オードリー・ホバートの2025年作『Who’s The Clown?』(RCA)、ベイルートの2025年作『A Study Of Losses』(Pompeii)