メタリカ『Master Of Puppets』が1986年3月3日のリリースから40周年を迎えた。今回はこれを記念し、音楽評論家・大鷹俊一に本作について執筆を依頼。メタリカが世界的なバンドになったきっかけの一作であり、その後の歩みに繋がる本作の解説をお届けしよう。 *Mikiki編集部

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METALLICA 『Master Of Puppets』 Elektra(1986)

 

ジョン・ゾーンやアルビニも絶賛した極限の音

いまやロック名盤アルバムの最上位にランクされるメタリカの代表作、邦題〈メタル・マスター〉こと『Master Of Puppets』が今年の3月でリリース40周年となった。

『Kill ’Em All』(1983年)、『Ride The Lightning』(1984年)を経てのサードとして1986年3月にリリースされたもので、バンド結成の軸となってきたラーズ・ウルリッヒの重量感溢れるドラムスがリードし、中央で仁王立ちのジェイムズ・へットフィールドのボーカルとカーク・ハメットのギターが襲い掛かってくる“Battery”に始まり、最高作と言われたりもする超絶ギターテクニックに包まれたタイトル曲“Master Of Puppets”という人気曲が続き、“Welcome Home (Sanitarium)”や亡きクリフ・バートンのベースがフィーチャーされる“Orion”ではいかにこのバンド全員がテクニカルなのかというのをこれでもかと披露し、そしてアルバムリリース後のツアータイトルともなった“Damage, Inc.”の力をため込んだ前半から一気に加速して展開するナンバーで締めくくられる全8曲は、どれも若きメタリカならではの熱気に溢れている。

ここで正直に書いておくと自分がメタリカに本格的に向かい合い、やられたのはこのアルバムだった。それ以前に『Kill ’Em All』の評判や盛り上がるスラッシュメタルの話題は知ってはいたもののどこか距離があったのだが、それが一気に身近になったのはジョン・ゾーンやスティーヴ・アルビニ等、当時尖りまくった音作りや活動でマークしていたインディ系のプロデューサーたちがハードコアパンクにも通じるスラッシュを極めた音、パフォーマンスを絶賛していたからだった。スタイルや展開パターンがすっかり確立していたヘヴィメタルとは違い、メンバー全員が極限までテクニックを極め合い、それを激しい音へと転化していくアプローチはとてつもないバンド力とテンションの高さを見せつけられ新鮮だった。

 

逆風が吹く時代、マニアックなバンドの奇跡的な成功

そして本作が全米チャートの29位まで上がったのにも驚かされた。

常識的な感覚で言えば29位程度ではとてもスーパーヒットとは言えないのだが、西海岸のメタル、それもスラッシュメタルと括られるローカルかつマニアックなバンドが、メジャーデビュー盤とはいえメディアやプロダクションの大掛かりな推しもないままライブ、楽曲、バンドの魅力でもってそこまで上がるというのは奇跡に近く、この後のスラッシュ勢はと見てもせいぜいメガデスがランクインした程度なのだ。

ちなみに時代的に大当たりしている音と言えばホイットニー・ヒューストンやジャネット・ジャクソン、マドンナの黄金時代。ハード系の音はせいぜいヴァン・ヘイレンが健闘している程度で、ダンス系やソフィスティケイトされたサウンドが圧倒的に支配するなかでの29位だから、そのインパクトも少しは伝わるはず。

 

悲劇からの再出発、そしてアメリカを代表するバンドへ

そんなメタリカに初期最大の事件が起こる。1986年9月スウェーデンでのツアー中の交通事故でベースのクリフが亡くなってしまうのだ。ファンの嘆きを受けながら新たにジェイソン・ニューステッドを加えたグループは翌1987年に5曲入りEP『The $5.98 E.P.: Garage Days Re-Revisited』を発表するが、これが改めての誕生宣言でもあった。

ダイアモンドヘッド、ホロコースト、バッジーといったUK系のハードロックバンドやニューウェーブ時代のキリング・ジョーク、そしてアメリカのインディ系ハードコアパンク、ミスフィッツといった知名度は低くとも、自分たちのルーツとなったバンドへのリスペクトを全身で示すカバーを再出発の門出に聴かせ、これは全米18位までランクインした。

こうして新しい時代に入ったグループは1988年9月、新体制でのアルバム『...And Justice For All』をリリースする。初めてMVが作られたシングル“One”のヒットを始め、アルバムはトップ10入り、最高6位を記録し、アルバムジャケットにも描かれた〈正義の女神テミス〉を用いた巨大なライブセットを持ってのツアーは世界中で大人気となった(今でも1989年の日本ツアー、代々木第一体育館のステージで女神が崩れ落ちる瞬間の記憶は鮮烈だ)。

以後、メタリカの新作オリジナルアルバムは全米1位が定位置となったし、アメリカを代表するバンドとしてのポジションは今も揺らぐことはない。だからこそ、そのメジャー進出の原点として『Master Of Puppets』は特別なものであり、40周年というアニバーサリーを最高に祝われるべき作品だろう。