イーノの90年代後半から2000年代の試行 新しいジャズとヴォーカルの再発見
ブライアン・イーノの90年代前半は、当時台頭していたハウスなどのクラブ・ミュージックへの反応とも言われる『Nerve Net』(1992)に始まり、インスタレーション作品のための音楽を集めた『The Shutov Assembly』(1992)やアンビエント作品の『Neroli』(1993)、また、U2とのプロジェクトであるパッセンジャーズなど、80年代のアンビエント以後とプロデューサーとしての成功をさらに展開させたものとなった。
90年代後半は、デレク・ジャーマンの映画「Glitterbug」のサウンドトラックをジャー・ウォブルがリメイクした『Spinner』(1995)をへて、〈歓迎されないジャズ(unwelcome jazz)〉と称した、ジャズ的なものを指向して、『The Drop』(1997)を制作した。そして、1998年に、J・ペーター・シュヴァルムによるバンド、スロップ・ショップの『Makrodelia』と出会い、イーノのジャズ的指向がより明確な形を持つようになる。その過程の一部であるシュヴァルムとホルガー・シューカイとの1998年の録音が、のちに『Sushi. Roti. Reibekuche』(2024)として発表されてもいる。『Drawn From Life』(2001)は、シュヴァルムとの『music for 陰陽師』(2000)に続いてリリースされ、シューカイやローリー・アンダーソンが参加した、アブストラクトかつクールなジャズ的なものをスタイルとして完成させていく2000年代のイーノのはじまりを告げる作品である。

2025年に公開されたジェネラティヴ・ドキュメンタリー映画「Eno」の中で、イーノは自身のルーツとしての声/歌への関心について話している。それは、ラジオから聞こえてきたザ・シルエッツの“Get A Job”(1957)についてのものである。イーノがドゥーワップのスキャットの歌真似を交えながら、その歌声に魅せられた体験語るのを意外に思った人もいるのではないか(イーノは、トーケンズの1961年の“The Lion Sleeps Tonight (Wimoweh)”を1975年にカヴァーしてもいるが)。『Another Day On Earth』(2005)は、イーノにとってソロ・アルバムかつ、本格的にヴォーカル曲によって構成されたという作品としては、『Before And After Science』(1977)以来、28年ぶりとなるヴォーカル・アルバムである(ジョン・ケイルとの『Wrong Way Up』(1990)でも、数曲その歌声は披露されていた)。アンビエントを経過した美しさを持った本作は、イーノのすぐれたメロディ・メーカー、そしてヴォーカリストとしての魅力を際立たせた名作である。

これらのアルバムが、イーノが自身のレーベルOpalを35年ぶりに再始動するにあたり再発される。レーベルとしての活動にも期待したい。