あのオパールが再起動……ブライアン・イーノ至高の音楽はいつ聴いてもイーノ!
ブライアン・イーノがオパールをレーベルとして本格的に再始動する。イーノが自身の芸術的世界観を追求する場として88年に設立したオパールは、代表作『Nerve Net』(92年)や『The Shutov Assembly』(92年)、ダニエル・ラノワやララージらも名を連ねた『Music For Films III』(88年)などをはじめ、自身や友人たちのアイデアを具現化するための拠点として非常に重要な機能を果たしていた。いまでこそすっかり市民権を得た〈アンビエント〉だが、当時はまだポップ・フィールドからこぼれ落ちてしまっており、本レーベルはそうしたジャンルがやがて独自で発展していくまでの貴重な受け皿だったとも言える。みずからの制作活動に専念するためにやむなく一時休止するまでのわずか数年間ではあったが、その後のシーンに与えた影響は実に大きい。
イーノ自身といえば、ここ数年はフレッド・アゲインやコンセプチュアル・アーティストのビーティー・ウルフとの一連の作品、少し遡ると2014年にアンダーワールドのカール・ハイド、2018年にはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズなど、興味深いコラボレーションでリスナーを驚かせている。帰ってきたホームでどのような展開が待つのか、大いに期待したいところではあるが、そんなレーベル再起動にあたってまず用意されたのが、イーノの代表作『Drawn From Life』と『Another Day On Earth』という2作品のリイシューである。

2001年にリリースされた『Drawn From Life』はイーノとJ・ペーター・シュヴァルムによるアンビエント・プロジェクトであり、盟友のホルガー・シューカイやローリー・アンダーソンも参加したインストゥルメンタル作品。2人は2000年に夢枕獏の小説を原作とする岡野玲子の漫画作品「陰陽師」をモチーフにして制作したアルバム『Music For Onmyoji』を日本のみでリリースしており、そこから発展したのが本作である。収録曲“Persis”は音源ではいわゆるアンビエント然としているのだが、動画サイトの公式チャンネルで視聴できるライヴでは2人の緊迫感が漲るインプロの応酬がアンビエントとは程遠い次元まで聴く者を連れ去っており、併せてご覧いただきたい内容だ。

もう一枚の、2005年にリリースされた『Another Day On Earth』は先述した『Nerve Net』以来となる本格的なヴォーカル・アルバムであり、代表的なソロ作品のひとつとして高く評価されている一枚である。〈アンビエントの巨匠〉というイメージもあってヴォーカルの印象は薄いものの、みずからの声で歌にして何らかのメッセージを伝えなければならないときには必ずヴォーカル・アルバムをリリースするのが、ブライアン・イーノというアーティストだ。当時の彼はU2やデヴィッド・ボウイなど錚々たるアーティストたちのプロデュース仕事でも多忙だった時期で、そこで得た知見も活かしつつふたたび歌の世界へ戻って完成させた本作には、数少ないライヴでも演奏されることの多い定番曲“And Then So Clear”をはじめ、“Bone Bomb”や“Caught Between”“Bottomliners”が収録されている。本作に続くヴォーカル・アルバムは2022年の『FOREVERANDEVERNOMORE』までブランクが空くが、気候危機に強い関心を示していたイーノがそこで人類に強いステートメントを発していたのも記憶に新しい。
かつて本レーベルが掲げてきた幅広い音楽性を象徴し、一見すると対極にも思える2作品の同時リイシューが今回の再始動にあたってまず企画されたという事実が、今後のオパールやアーティストとしてのイーノ本人の進もうとしている方向を指し示しているように思えてならないが、実はいずれの作品も同じ環境で制作されたということが、今回のリイシュー盤に封入されたエッセイで明かされている。そこで当時の制作環境や機材などが本人の口から語られている点も貴重だろう。同タイミングでの配信も予定されてはいるが、ここはぜひCDやアナログを手に取っていただき、より深く理解するための副読本として楽しんでいただけたら幸いだ。
左から、ブライアン・イーノ&ビーティー・ウルフの2025年作『Lateral』、ビーティー・ウルフ&ブライアン・イーノの2025年作『Luminal』(共にVerve)、フレッド・アゲイン&ブライアン・イーノの2023年作『Secret Life』(Text)、ブライアン・イーノが手掛けた2023年のサントラ『Top Boy』(Netflix)、ブライアン・イーノの2022年作『ForeverAndEverNoMore』(UMC)、ブライアン・イーノがホルガー・シューカイとJ・ペーター・シュヴァルムと98年に録音した未発表音源集『Sushi! Roti! Reibekuchen!』(Groenland)