©Cecily Eno

新しい時代のための活動家
――17年ぶりのヴォーカル・アルバムが問いかけること

 ブライアン・イーノは昨年このように語っている。

 「この5年間、私たちの社会は、歴史上かつてないほど大きく変化しています。これは世界大戦を除けば、歴史上のどの時期よりも大きな変化です。そのために、ディスカッションをして理解しなければならないことがたくさんあります。それには様々な立場の人の意見が必要だと思います」

 イーノは、この数年、人類学者のデヴィッド・グレーバー(「負債論──貨幣と暴力の5000年」、「官僚制のユートピア──テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則」の著作で知られる)、ギリシャの元財務大臣で国会議員のヤニス・バルファキス等を初め、哲学者、科学者などと大学やZoom等でミーティングやディスカッションを始めている。YouTubeでたくさん見ることができる。そして、イーノが語っていることは、こうした人々の引用が含まれている。とても重要なものが多いので、ぜひ見てもらいたい。イーノは、最近では、肩書きに音楽家、プロデューサー以外に環境運動の活動家、政治活動家を加えている。イーノはDiEM25(ヨーロッパの民主主義運動2025)のメンバーなのだ。

BRIAN ENO 『FOREVERANDEVERNOMORE』 Opal/UMC/ユニバーサル(2022)

 イーノの17年ぶりのヴォーカル・アルバムは、こうした活動の結果だと言える。タイトルは現在の気候変動による緊急事態を暗示している。イーノはこう語っている。「この音楽は狭まっていく不安定な未来について考えてきた思いから生まれたものです。世界が超高速で変化し、その大部分が永遠に消え去ろうとしていることがわかっています。だから、こうしたアルバムのタイトルにしたのです」

 イーノは1960年代の音楽家達の政治とのかかわり方と違ってイデオロギーや思想よりも、地政学、地球の資源の使い方、人口の数と社会との関係、マシーン・ラーニング(AI)等の新しいテクノロジーの使い方、などについて興味を持っている。イーノと共に政治運動をしているバルファキスは、ロボット化が進むことによって、先進国では45%の職業が必要なくなるかもしれないが、最新テクノロジーをまだ取り入れられない発展途上国はどうなるか? そう考えると基礎配当金(universal basic dividend)の配給が必要になるだろうと語っている。

 イーノは英国での、このアルバムのプロモーションでこのように語っている。

 「現在、新しい経済学を発明する必要があります。地球資源を無限に搾取するような経済学ではだめです。継続的な成長という考え方に基づかない新しい経済学が必要なのです。これは以前の状態に戻すということではありません。以前の状況はそれほど良いものではないからです。新しいもの、より良いものへの移行が必要なのです。
 このアルバムは、何を信じてどう行動すべきかを伝えるためのプロパガンダではありません。私自身が自分の〈感情〉を探求している証です。芸術家の仕事とはイマジネーションにより新しい感覚を与えるものであり、それによって新しい世界を迎える準備をさせることだと思います」

 この言葉は、2018年にイーノが共作し、共同プロデュースしたデイヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』のコンセプトも思い起こす。

 今作は、今までのイーノのヴォーカル・アルバムとは違い、リズム楽器は入っていない。2曲はイーノの娘ダーラとの共作。共演者に弟のロジャー・イーノと姪のセシリーがいる。音楽だけを聴いていると、イーノの上質のアンビエント・ミュージックの中に彼のヴォーカルをその中心に入れた印象がする。「誰もいない風景画を見るのと、そこに人影が一人あるのと、見る人の目の動きが全く違ってきます」とイーノは語る。その音の一つ一つのセンスが素晴らしい。Apple MusicとAmazon Music、Blu-ray Audioではドルビー・アトモスという高音質音源で聴くことができる。

 イーノはこのアルバムについて、次のように語っている。

 「生命の驚くべきありえなさに再び魅了され、すでに失ったものに後悔や辱めを感じ、私たちが直面している挑戦と不透明な未来に爽快感を覚えるかもしれません。簡潔に言えば、私たちは自然、文明、そして未来への希望に、再び恋に落ちる必要があるのです」

 あなたはこのアルバムを聴いて、何を思うだろうか?

 


ブライアン・イーノ(Brian Eno)
ミュージシャン、プロデューサー、ヴィジュアル・アーティスト、 アクティビスト。70年代初頭にイギリスのバンド、ロキシー・ ミュージックの創設メンバーの一人として世界的に注目を集め、その後、一連のソロ作品や様々なコラボレーション作品を世に送り出している。音楽活動と並行して、光や映像を使ったヴィジュアル・ アートの創作活動を続け、世界中で展覧会やインスタレーションを行っている。長期に渡るスパンで文化的施設や機関の基盤となることを目的とする〈Long Now Foundation〉の創設メンバー、環境法慈善団体〈ClientEarth〉の評議員、人権慈善団体〈Videre est Credere〉の後援を務める。2021年4月には〈EarthPercent〉を立ち上げ、音楽業界から資金を集めて、気候変動の緊急事態に取り組む最も影響力のある環境慈善団体への寄付を行っている。