あらゆるジャンルを横断する独自の色彩と意外性に満ちた一枚
コーリー・キングはトロンボーン奏者で、色々な楽器を駆使するシンガー・ソングライターでもある。約7年ぶりに発表された新作『Change The Wind』は、エスペランサ・スポルディングや黒田卓也、複数のドラマーなどの協力を仰ぎつつも、基本的に一人で作り上げたアルバムだ。中でも一曲目“R.M.K”は一人多重録音。この内省的な曲には、娘が誕生した際のことが描かれている。
「娘は現在3歳になるけど、彼女は遺伝性の病気を患っている。でも、そのことが判明した時、僕はなぜかすごく落ち着いていた。この新作はとても深く、温かみのあるサウンドになっていて、曲と曲、音と音の間に〈空間〉がある。その空間は、僕にとって瞑想のような状態に入ることを意味するものだけれど、きっとリスナーにとっても同じだと思う」

コーリーは、テキサス州ヒューストン生まれのアフリカン・アメリカン。彼は、最近のイギー・ポップのバンドでも活動している。また、新作にはスウェーデンのパンク系バンド、ヴァイアグラ・ボーイズの“Worms”のカヴァーが収録されている。
「イギー・ポップは、モダン・ブルースのシンガーだと捉えている。それと僕はもともとパンク的な姿勢が好きだし、このヴァイアグラ・ボーイズの曲には自分自身が表現されていると感じた。ただ、どうしたら僕らしい曲にできるだろうか、と考えた。それでエスペランサ・スポルディングにポートランドにある彼女の自宅でアップライト・ベースを録音してもらうことにした。彼女はシンガーとしても有名だけど、僕にとってはまずベーシストであり、このカヴァーを聴いてもらえると分かるように、ソロも本当に上手い」
テレキャスター・ギターを弾きながら歌う来日ライヴでのコーリーの姿は、カーティス・メイフィールドをちらっと思い起こさせた。コーリーは、彼の流れを汲む〈オルタナティヴR&B〉系アーティストであり、アフリカのフェラ・クティやヒュー・マサケラの影響も受けている。が、その一方で、先の事柄から想像できるように、彼の音楽にはインディー・ロック的な感触もある。それだけに、最近彼が愛聴しているアルバムも、意外性に富む。
「最近いちばん聴いているのは、キース・ジャレットの、76年の日本ツアーを収録した『サンベア・コンサート』だね。それと僕のフェイヴァリット・シンガーは、マーク・ホリス。そう、英国のトーク・トークのヴォーカリストだった人物だ」