インタビュー

Idiot Pop 『UNIVERSE』(1)

とびきりポップでストレンジなメルヘン・ワールドを構築してきたトラックメイカー。〈歌〉を通じ、その音世界の真ん中に立つロマンティストの素顔がいま明かされる!

Idiot Pop 『UNIVERSE』(1)

全部見せてもいいかも

Idiot Popから〈i〉を取ると〈ドット〉になるんですよ。そこから、初めてアー写を撮ったときにドットのパーカーを前後逆に着て、フードをかぶって目を付けたらお化けっぽいなと思って。それで、『Idiography E.P.』(2010年)以降のジャケは〈ドット君〉っていうキャラクターをメインに依頼してたんです。でも今回は、自分が聴きたいものを自分のために作ったっていうアルバムなので。音楽的な部分も、パーソナルな部分も、Idiot Popっていう人間をすべて詰めた作品だから、今回ドット君はちょっと横に置いておこうかと」。

思春期に出会って衝撃を受けたという小室哲哉イズムと時流のエレクトロニック・ミュージックを交配させることで、どこかネジの飛んだ奇妙さと飛びきりのポップネスが共存するメルヘン・ワールドを構築してきたIdiot Pop。2012年には禁断の多数決の初作『はじめにアイがあった』に“透明感”をはじめとしたコラボ曲を提供してメロディーメイカーとしての資質も露にした彼だが、確かにその人物像の大部分は、ドット君というヴィジュアル・イメージの影に隠されていたように思う。けれど、約1年半ぶりに届いた新作『UNIVERSE』はどうだ。トラックの持つ歌心が格段に増強され、それに引き出されるように、歌詞にも彼がもともと内包していたであろうセンティメンタリズムがくっきりと表出。ダンス・ビートを敷いたヴィヴィッドな作風は保たれているものの、歌モノの数も生演奏の比率も増え、リスナーに対して大きく開いた──その音世界の中心に佇む〈i〉の気配がよりはっきりと感じられる作品となっているのだ。

Idiot Pop UNIVERSE MOTION±(2014)

 「そもそもルーツが小室哲哉だし、最近聴いてるものが歌モノにシフトしてるっていうのもあるんですけど、言葉があると、何年後かに聴いても〈ああ、これ良い曲だったね。また聴こう〉って気持ちが戻りやすいんじゃないかと思って。例えばTwitterみたいに流れていくものじゃなくて、いつまでも聴く人のなかに残るものを作りたいっていうのがあるんですよね。僕、2009年に出したアルバム(『Idiot Pop.』)ではフィジェット・ハウスとかエレクトロの要素を入れたりしてたんですけど、いまライヴでやれる曲となると“Anyway Someway”とか“Wander Wonder”とか、時流じゃなく自分のパーソナリティーがすごく出たもので。もちろん〈時代の音〉もエッセンスとしては入るんですけど、それがきちんと自分の血となり肉となったものを出したいと思ったんですよね」。

 そうして制作に取り掛かった本作の起点となったのは、ビリー・プレストンの“Nothing From Nothing”にインスパイアされたというソウル・フィーリングを纏ったポップ・チューン“There We Go!!!”と、唱歌の如きメロディーを辿る歌が倍速に変化するリズムと呼応してエモーションを爆発させる“君のことが知りたくて、君のことを夢に見る”だという。

「ビリー・プレストンをやるなら90年代の渋谷系っぽいのがいいなと思って。で、NEIL & IRAIZAもやられてたチャーベさん(松田岳二)にヴォーカルをお願いしようと。渋谷系はそんなにどっぷりじゃないんですけど、90年代はglobeがデビューしたっていうのもあるし、プロディジーが出てきた頃のレイヴ・シーンも好きだし、Idiot Popのキーワードはあの頃の突き抜けたポップ感──90年代感かもしれないです。あと、この曲は“Wander Wonder”感というか、暗いときも明るいときもあるけど前に進んでいこうっていう自分への応援歌みたいなところもあって。ホントはネガティヴでしょうもないやつなんですけど(笑)、歌詞ではそういう主人公を演じてるかもしれません。“君のことが知りたくて、君のことを夢に見る”は、インストの時点でスタッフに聴いてもらったら郷愁感があって良いと。で、この曲は歌ってもらったスーダラ少年さんにサビ以外のメロと歌詞をお任せしたんですけど、こうきたか、と自分ではいちばん驚きが大きかったです。ミスチル感があるというか、ライヴで合唱したい感じで。で、なんだかこの2曲が出来たとき、〈これ、もう開いちゃったほうがいいんじゃないかな〉と思って。音楽を通してプライヴェートな部分を全部見せてもいいかなと思ったんです」。


フルコースみたいなアルバム


そんなふうに、自身の内側にあるポップネスを歌として開示した楽曲は他にもある。ピアノの三連に乗せて子供の無邪気な歌声が弾む“Les Adventures”、煌めくエレポップシューゲイザーでコーティングした“HOPE”、甘くロマンティックなフューチャー・ポップ“コズミックダンサー×プラトニックスター”、やまのいゆずるのリリカルな男女MCをフィーチャーした“フリクション”と、方向性もさまざまだ。

「“Les Adventures”は『となりのトトロ』の“さんぽ”みたいなキッズ・ソングを作りたいと思って。これまでは子供ネタのサンプリングって70年代のキッズもののレコードとかから取ってたんですけど、今回は英詞で生の歌が実現して。ホーンも入れて華やかで、三連を入れて子供感を出したというか。サビでは〈ビビデバビデブー〉の代わりに〈dig-di-dig-di-long〉っていう造語も入ってます(笑)。“HOPE”と“コズミックダンサー×プラトニックスター”ではlinesShoko Eidaさんに歌ってもらっていて。コーラスが上手くていくつも重ねてくれて、勉強になりました(笑)。〈コズミックダンサー〉のビートは2000年代初頭のスーパーカーくるりを意識してて。同じコードで展開するんですけど、途中、アシッドになるところではイマっぽいというか、アフロジャックが使ってた90年代のデジロックみたいな感じを持ってきたり、ベースはデュラン・デュランの“White Lines”(グランドマスター・フラッシュのカヴァー)のギターみたいなのを弾いてもらったり。ドクター・ドレーじゃないですけど、サンプリングを弾き直してるような感覚というか、もうごちゃ混ぜですね(笑)。“フリクション”は最初からラップを入れたいと思って作りましたね。ピアノとサンプリングっていうトラックのNujabes感に対して、メロディーが出ると突然小室寄りになる(笑)。で、サビはドラムを入れてちょっとパンクっぽくしようと。世界が自分を中心に回ってるような中二病っぽい歌詞がちょっと恥ずかしいですけど(笑)、17歳の自分が聴いたら気に入るだろうなって」。

そんな歌モノでキャッチーに振り切る一方で、従来の彼らしいフロアユースなトラックも健在。疾走するアーメン・ブレイク上で溌剌としたキッズ声が躍る“DREAMING BOY IN BEDROOM”、イタロ・ディスコのサンプリングを元に我流のEDMを構築したという“Living Dead in Italo”、チルウェイヴ風の音像のなかにトラップ・ビートと(本人いわく)1975の“Chocolate”を参照したギター・カッティングが浮かぶ“Everlasting Loving You”、ドラマティックなピアノをミニマル・サウンドに乗せた“life is like a bad movies”──と、その独特の折衷感覚を反映させた楽曲群は、いわば、彼のリスナー遍歴を細かく配したコラージュ・ポップ。そのサンプルに向けての着眼点、組み合わせ方にこそ、彼の記名性──〈i〉が宿っている。

「そうですね。考え方はヒップホップ的かもしれないです。生演奏が増えた今回も、いろんな時代やジャンルから素材を細かく持ってきてるし。あと僕、ギターとかやってる人からだと自分の曲を〈エモコアだね〉って言われるんですよね、エモコア経験はないんですけど(笑)。だから、さまざまな音楽体験を自分の解釈で組み合わせたら、Idiot Popらしい喜怒哀楽が表現できるのかなって。そういう意味では、感情の面でも、音楽的な面でも今回はフルコースみたいな……とことん自分が出たアルバム。時代の音に合わせないといけないとか悩んだ時期もあったんですけど、もう好きなようにやろうと。完全に振り切れましたね。自分のポップ感を信じて前に行こうって」。

▼関連作品

左から、禁断の多数決の2012年作『はじめにアイがあった』(AWDR/LR2)、松田岳二率いるCUBISMO GRAFICO FIVEの2011年のミニ・アルバム『HALF DOZEN』(Niw!)、やまのいゆずるの2013年作『ニューミュージック』(OOPARTS)、スーダラ少年の2013年のミニ・アルバム『Question』(VOIL)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

 

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