いつもながらに説明不要……なれど、いつも以上に問答無用! 圧倒的なスタイルの差を示すニュー・アルバム『WAVE RUNNER』から迸る昂揚は、聴く者を至上の別天地へ誘う!

 


 

アップリフティングな機能美

 バチバチと火花を散らしながら、閃光と共に鋼鉄が焼き切れているようなロゴ。シンプルを極めたような前作のアートワークとそれを比べてみただけでも、今回のサウンドがどのように激しく進化しているのか、想像を巡らせるのは容易かもしれない。前作『CAPS LOCK』(2013年)からおよそ16か月ぶりに登場した待望のニュー・アルバム『WAVE RUNNER』は、CAPSULEの恐るべきポテンシャルをまたしても証明することになるだろう。

CAPSULE WAVE RUNNER unBORDE(2015)

 言うまでもなくCの文字は、〈(C)中田ヤスタカ〉というブランドの核を示す記号でもある。コンスタントに送り出される高品質なプロデュース・ワークの数々は前作リリース時の本誌記事でも網羅されていた通りだが、浸透の度合いという意味ではその勢いがさらに強まっていることを実感せざるを得ない。さまざまな形でお茶の間にファンタジーを持ち込む存在となったきゃりーぱみゅぱみゅの諸曲は言わずもがな、それ以前から手掛けてきたPerfume、さらに一般流通シングルとしては初仕事となるSMAPの“Amazing Discovery”、さらに直近ではE-girlsへの楽曲提供などもあって、それと知らずに中田ワークスに触れていることもしばしばじゃないだろうか。また、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(2013年)の挿入曲に続く映画絡みの仕事として「アップルシード アルファ」(2014年に海外先行で公開)のメイン・テーマ“Depth”を書き下ろしたのも記憶に新しいし、昨年は〈機動戦士ガンダム 35周年プロジェクト〉のテーマ曲“G35”を書き下ろしたり、来る3月に開業する北陸新幹線・金沢駅(金沢は中田の故郷でもある)の発車音にメロディーが採用されるなど、その手腕は文字通り多岐に渡って発揮されている。

 そんな好況のなかで届けられたのが今回の『WAVE RUNNER』だ。かねてから中田自身も説明しているように、CAPSULEはもっとも自由に創意工夫を巡らせて取り組むメイン・プロジェクトという位置付けだが、先行配信されたアップリフティングなシングル“Another World”からもわかるように、今回は改めてダンス・ミュージック、フロア・ミュージックとしての機能美をとことんまで追求した作品となっている。

 いささか蛇足気味な説明をしておくと、『CAPS LOCK』における大胆なアプローチに触れたリスナーほど、改めて今作での挑戦的な試みに打たれるはずだ。物凄く大雑把に言えば前々作『STEREO WORXXX』(2011年)に至るまでの彼らは、『FLASH BACK』(2007年)あたりから顕著になりはじめた進化の方向性を(語弊はあるが)ほぼ一直線に突き詰めながらアルバム・リリースを重ねてきた。が、そこから一転して大文字の〈CAPSULE〉にリニューアルしての『CAPS LOCK』は、いわゆるダンス・ミュージックのフォーミュラから自身を解放し、その時点における中田の興味を、スケール感のあるインスト主体でアウトプットした野心作となっていたのだ。フロアやライヴで再現されるためではなく、ストリクトリーなリスニングのための音響/音像の心地良さや楽曲展開を強調したアルバム全体の構成と流れは、ある種のインスタントな音楽消費に対する問題提起にもなっていたわけである。そこからまた翻っての『WAVE RUNNER』だからして、この試みには大きな意味があるに違いない。

 

本質的なブレのなさ

 今回のアッパーな〈フロア回帰〉の要因をあえて短絡的に考えるなら、ここ数年でさらに一般的なものとなったEDMの存在が挙げられるだろう。もちろん中田はいわゆるフレンチ・エレクトロを筆頭とする多様なシーンとの同時代性をDJプレイやCAPSULEを通じて常に表明し続けてきたわけで、EDMがブーム化してジャンルとしての認識を得る以前からエレクトロニックなダンス・ミュージックを牽引し続けてきた一人である。それでも今回あえてEDMのユニヴァーサル・デザインに興味を傾けていることを表明するのは、先駆者としての自負もあろうが、それ以上に〈こういうのが流行ってるけど、自分ならこうする〉という遊び心の発露のようにも思えてくる。もっとも、序曲を経て先述の“Another World”で野太く渦を巻くメロディーとビートの奔流には、そんな理屈も何も関係なく問答無用で押し流されてしまうのだが……。

 こしじまとしこのホーリーな歌声と執拗にバウンシーな展開が交錯する“Dreamin' Boy”、同じく儚げなヴォーカルを緩急のあるユーロ・ハウス調でトランシーに響かせた“Hero”が居並ぶ序盤は、本作の在りようをプレゼンするかのようにひたすらフロア直下型の突き抜けた多幸感を投入してくる。そういった即効性抜群なトラックがある一方、ヒプノティックな音色の抜き差しでジワジワした昂揚へと導く“Dancing Planet”も最高。先述した“Depth”の獰猛な〈vocal dub mix〉にも注目だ。

 そうやってアルバムを聴き進めていくと、曲調の変化に応じてこしじまの歌唱が果たす触媒としての魅力にも改めて気付かされる。昨今のEDMヒットの多くはシンガーを配してポップソングとしてもそのまま機能するものが多いが、今作で彼女が果たす役割もまさにそれだ。素直なメロディーが快い“Feel Again”や“Unrequited Love”は往年の作品から地続きのフィーリングも備えつつ、明らかに2015年的なアップデート感をもわかりやすく示した大きな成果だろう。一方で、『CAPS LOCK』で緻密なこだわりを見せた曲調の展開を伴うランニング・タイムの意味は、バキバキと起伏の激しい“White As Snow”やコズミック・フュージョンと呼びたい雄大なSFテイストの終曲“Beyond The Sky”に顕著。そうやって考えると、単純なアウトプット像の変化はあれど、中田ヤスタカの音楽が狙う本質は変わっていないと見ることもできるのではないだろうか。

 ここからもライヴやDJツアーを通じて広く伝播されていくであろう2015年型CAPSULEの圧倒的なカッコ良さ。流行の波の上を走り抜けるその勢いは、ますます加速していくに違いない。