ギミックを減らして、きっちり耳に聴こえてくる音を大事にした
――こういう生き死にの話はこの先にも出てきそうな気がしますが、その前に次の“トゥナイトゥナイ ヤヤヤ”。これは、2014年2月1日・2日に舞浜アンフィシアターで開催された〈東京カリ≠ガリランド〉関連の配布音源だったものですが、別アレンジとなっていて。これもcali≠gariらしいですけど、同じアレンジでの録り直しは考えなかったってことですね?
「考えなかったし、今回も自分でアレンジしてないですからね。それはもう白石さん(白石元久、エンジニア)に投げてしまおうかなと思って」
――cali≠gariとしてのアレンジは元のヴァージョンだったと。
「そうですね」
――この原曲は、青さんいわく〈cali≠gariの第九〉という盛大な華やかさを持つ楽曲ですが。
「うん……それはたぶん、ティンパニーが入ってるからなんだろうけど(笑)。おもしろいですよね、青さんは。〈青さんがTwitterでそういうふうに言ってるよ〉って村井君から聞いたんですよ、俺(笑)」

――ビックリしました?
「うん(笑)。だから今回もね、別アレンジというか、もうリミックスみたいになってますけど、人の手に渡った感じがよかったんですよ。リアレンジしてもらって、それに合わせて新たにヴォーカルもギターもベースも全部録り直してはいるので、違った印象にはなったのかなと思いますけど」
――違った印象どころか、ずいぶんトランシーに変わってまして。
「ただそれは、この曲がこのアレンジに変わったっていうことではないですよ。これからはこの形で演奏していくっていうことではまったくないので、このアルバムのヴァージョンぐらいに考えてもらったらいいですね」
――そしてこの曲の歌詞は、石井さんにしては珍しく、ファンタジックなモチーフがあちこちにありますね。
「ああ、そういう意味では珍しいですね」
――言ってることは、先ほどの“颯爽たる未来圏”とあまり変わらないかと思いますが。
「うん、変わらないですね。なんか、青さんが(桜井の物真似で)〈珍しく意味わかりますね!〉って言ってきましたよ。おもしろいでしょ(笑)?」
――その唐突な物真似がおもしろいんですが(笑)。こういうファンタジックなモチーフで書く、っていう発想はどういうところから?
「それは単純に曲を作ってて、曲の印象がそんな感じだったんで。曲のトーンというか…………ティンパニーが入ってるから(笑)。ティンパニーありきで作りましたからね。cali≠gariにはあんまりね、いわゆる俺の好きなシンセサイザーが似合わないんですよ。〈シンセサイザー〉っていう言葉が似合わないですね、cali≠gariには」
――ああ~、はい。
「まあ、ティンパニーもまさか生の音が鳴ってるわけじゃないから、ソフトウェアのそういう音色でやってるわけですけど、でも、例えば〈アナログ・シンセの良い音〉みたいな、〈ぶっといシンベの音が〉みたいなのはバンドではないじゃないですか。それで、cali≠gariに似合う音は何かっていったら、ティンパニーでしょうと」
――ド派手な感じが。
「銅鑼とかね。似合いそうじゃないですか。あと、アンフィシアターでああいうライヴをやろうっていうのが先にあったから、それが結構デカいんじゃないですかね? 攻撃的にいろいろ仕掛けたかったわけじゃないですか。ディズニー的なやつとかね? そういうことも込みでこういう曲なんですよ。アンフィシアターで発表する新曲っていうことで作ったんで」
――ファンタジー世界のなかにcali≠gariが入って行くための曲ということでしょうか。
「ファンタジーっていうか、ファンシーなやつですよね。cali≠gariなんて、みんな40歳とかそんななのに、みんなファンシーじゃないですか(笑)。サンリオみたいな感じじゃないですか」
――サンリオ(笑)。
「cali≠gariは、キャラクター的なことで言ったらキティちゃん的なところはありますよ。キティちゃんってすごいでしょ? yoshikittyとかね、いろいろコラボしてて。だからね、アンフィシアターでライヴやってるのに、キティちゃんとコラボしてaokittyとか、そんなふうに持っていければ最高だったんですよ。そこで一歩踏み込めなかったな、っていう」
――実践していたら、相当なチャレンジャーだったと思いますが……(笑)。では次の曲に移って、研次郎さんとの共作の“とある仮想と”。これは上領さんに曲を渡すにあたって、本当は石井さんの単独の曲を渡すところだったところが……。
「そうなんです。上領さんには当初、自分が作ってた曲を2曲渡す予定だったんですね。それで、SATOちに、研次郎君との共作の曲を叩いてもらうっていうことだったんですけど……あのね、研次郎君って作る曲が全部ハード・ロック、ヘヴィメタなんですよ。で、その曲を俺がもらって、ハード・ロック、ヘヴィメタではなくする作業から始めるんです。演奏技術的に、極端に変えないとcali≠gariでは演奏できないんですね。で、いつも〈いちばんcali≠gari的に変換できる曲はどれかな?〉っていうので研次郎君の曲を選ぶんだけど、今回はたまたま、〈wetton〉っていう仮タイトルの曲があって(笑)。それってジョン・ウェットンってことなんですけど、聴いてみたらちょっとプログレッシヴな、変な拍子が入ってくるようなもので。でも、それを聴いたのが上領さんのレコーディングをやる2日、3日前ぐらいだったんですよね。もっと前に聴いとけばピンときてたんですけど、あまりにも研次郎君から膨大な曲が、というか膨大なメタルが送られてくるので」
――(笑)大量のメタルのなかにプログレが埋もれていたと。
「そうなんですよ。でも、曲調はいいんだけど一個のパートしかないような感じで、そんなに作り込まれてないものだったから、構築するのに時間がかかるかなと思って、自分の過去のファイルとか作ってたものをひっくり返して、それと合体させたんですよね。だから、後半のサビの部分とかも強引な感じで。まあ、大きく分けて場面がふたつあるじゃないですか。最後、前半からまったく想像つかないようなポップスになるっていう」
――そこがドラマティックなんですよね。リズムもプログレッシヴと言いますか、どんどん展開していきますし。
「そうですよね。リズムはデモのほうがもう少しわかりやすいぐらいだったんですよ。最初はこの完成形みたいな感じで始まって、途中からは倍転して4分打ちのキックがドスドスいってる感じだったんだけど、上領さんがかなりまた、難解な曲に」
――よりアヴァンな仕上がりになったと。
「ええ。そうですね」
――この曲も、リリックは先ほどの……。
「そうですよ。言ってることは同じですよ。言いたいことはないですから。こっちのほうがさっきのよりわかりやすいかもしれないですね。どうせ死ぬならやってやろうみたいな、そのまんま言ってますもんね(笑)」
――〈今夜 爆発しよう〉ですからね。
「俺ね、生きるとか死ぬとかっていう表現って全然デリケートなものだと思ってないんですよ。でも意外と皆さん、字面だけで触れてはいけないものとかシリアスなものとして捉えるじゃないですか。そこが、俺には全然シリアスなものじゃないんです。だって、あたりまえでしょ? すべての人に共通してる部分って、それしかないと思うんですよね。男でも女でもね、生まれて、絶対死ぬっていう。もしかしたらこれから死なない人が出てくるかもしれないけど、いまのところはいないわけじゃないですか。だからそこの部分を、俺はごくあたりまえに言ってるんですけどね。言ってるというか、表現として使うんですけど」
――この曲に関して言うと、後半で転調する音と相まって、言葉も死に向かって加速していく感じがします。
「そうですね。そういうの、生きてて感じるんですよ。死ぬために生きてるんだなっていう感じがどんどんしませんか? 歳を取ってくると。どうやって死ぬかっていうのは大げさですけど、ある程度年齢を重ねると、1日とか1か月とか1年ってものすごいスピードじゃないですか。そのなかでね、俺は何に向かってるんだ、何をやろうとしてるんだ、っていうようなね、うん。あまりこういう話をしすぎると、よくわからない哲学的な話になってくるんですけど」
――すでにちょっと哲学っぽい感じになってますけどね。でも、加速してる感はわかります。加速した挙句にどこでフィニッシュなのか、というところも。
「そうですよね。あとはその、例えばホントに死ぬまで生きた場合? これも哲学的な表現を取ってるんですけど、ホントに死ぬまで生きた場合っていうのは、もう自分が死ぬっていうことわかりますよね? だけど、そうとも限らないじゃないですか。明日死ぬと思って生きてる人っていないけど、でも、明日死ぬ人っていっぱいいるわけで……みたいな? このへんにしときますか(笑)」
――(笑)いまのお話はこの曲のリリックそのまんまですし、あとはそのリリックを読んでいただければ、ということですね。
「そういうことをいちいち人と話す必要もないし、何かに残す必要もないんですけど、でも残念ながら、俺は歌詞とかを書いてる人間なんで。書くには何かしらモチーフが必要であったりするから書いてしまうってだけの話なんですよね。別にそんなことを普段から思っていたりとか、誰かとそういう気持ちを分かち合いたいとかはこれっぽっちも思ってないんですけど、っていうところですよ」

――では、次は“紅麗死異愛羅武勇”ですが。この曲、私としてはいまのcali≠gariそのものというイメージなんですよね。
「これは、仮タイトルが勝手に〈crazy〉ってなってたんですよ。完成形の前のヴァージョン、もともと自分で考えてたアレンジがプリンスの“Let’s Go Crazy”みたいな感じだったんですよね。それで仮タイトルがいつまでも〈crazy〉のまんまだったんです。だから本番の歌詞を書くときも、〈crazy〉をそのまま活かしたいなと思って。あとはね、昔、〈東京地下室〉(cali≠gariの企画イヴェント)をD’ERLANGERと一緒にやったとき、打ち上げでヴォーカルのkyoさんに、〈cali≠gariってクレイジーでカッコイイよね〉って言われたんですよ。そんなこと俺、初めて言われて。cali≠gariを一言で簡単に表す言葉ってなかなかないじゃないですか。〈ちょっと変わってる〉みたいな、〈イカれてる〉みたいな……それが〈クレイジー〉って言葉はポップだし、いろんなふうに捉えられるからなんか頭に残ってて、歌詞を書いてるときにそれを思い出したんですね。あとは、ヤンキー的な感じですよ。そういうのがたまたま自分のなかで合致して、〈クレイジー〉はそのまんま活かして、〈クレイジー〉だけじゃおもしろくないから〈アイラブユー〉を……他の部分もそうですけど、ヤンキーの方々の当て字をね」
――そういうヤンキー用語が乱れ飛んでる曲ですが、これはcali≠gariのライヴの風景がすごく浮かぶなあと。
「毎回俺がアルバムのなかで一曲作るような、“娑婆乱打”的なものですよ。いつもだったら前半のほうに入る曲だと思うんですけどね」
――これは中西さんがドラムを叩いてらっしゃいますが、他の曲ようにやはり〈宛て書き〉ですか?
「これは、ドラマーが決まる前からありましたね。俺の曲って最初これしかなかったんです。だからもう、中西君が叩いてくれるときにこれも一緒に頼んじゃおうと思って。でね、他の曲はデモを作り込んで、みたいな話をしたじゃないですか。でも、これだけはホントに曲が出来てなくて、歌も何か所かしか乗ってない、曲の正体がまだ俺にしかわからない状態で録ってもらったんですよ。だから、あのー、中西君はよくわかんない状態だったと思うんですけど(笑)」
――(笑)とはいえ、完成形は〈ああこれ、cali≠gariだよね〉って即わかる曲に仕上がっていると思います。
「そうですね。でも、この〈cali≠gariだよね〉っていう雰囲気のものは、ここ4~5年ぐらいの話ですよ。それ以前は、こういうものを出すと怒られるっていうか(笑)、絶対なかったイメージのものなんだけど。だから、cali≠gariが新しくなってからですよ。……まあ、もう5年も6年も経ってて新しいって言わないですけど(笑)」
――復活してからのcali≠gariということですよね。
「そうですね」
――なんだか、バンドとしてのスタイルが見えてくると言いますか。
「そうですね。わざとそういうふうにしてるところがありますね。俺、アルバムのなかで一曲は、全員参加みたいな曲を作ってるんですね。全員で歌うパートがあって、サポート・ミュージシャンのYUKARIEさんや秦野(猛行)さんもみんな参加しててっていう。ライヴで演るときは、みんな前に出てきて賑やかにやるみたいな、そういう感じの曲ですね」
――そして、石井さんの曲としては最後の“バンバンバン”。これは完全打ち込みの曲ですね。
「うん。本当はこれ、上領さんに叩いてもらおうと思って作っていた、もっとまともな曲だったんですよ。ああいったリズムで、尺も、本当は3分半から4分ぐらいだったんですけど、結局、村井君と共作の曲を上領さんにやってもらうことになって、これはアレンジの途中で放置してたんですよね。上領さんが叩いてくれるんならよかったんだけど、打ち込みで仕上げるにはちょっと微妙な感じだったので、物凄い短い曲にして、バカみたいな……このヤバイ歌詞ですよ。ね?」
――ヤバイ……? ……ああ!
「あれ? 響いてなかったですか? そこ。こんなの日本人のスタンダードじゃないですか(笑)!」
――すみません(笑)。いや、その……なんかストレートだったので。といいますか、なぜこういう発想に?
「最初はもう、ネタみたいな曲にしようっていうところだったんですよ。あの曲調ですから、本来はそれなりにシリアスな感じの、かなり初期のミニストリーみたいな、そういう感じの曲だったんですよ」
――ああ~、EBM的な。
「そうそう。その名残は残ってるじゃないですか」
――はい。
「でも、それが上領さんじゃなくなって、打ち込みでやらなきゃならなくなったときに、あんまり意味がないというか、俺のなかには〈これだったら上領さんに叩いてもらったほうがいいんじゃないの?〉っていうのしかなくて、だったらギャグみたいな形でフィニッシュしようと思って。で、曲をもっと短くしたりとか、笑っちゃう感じ、ニヤッとしてしまうような方向に持って行こうとした結果、こうなったんですよ。コードは一個しかないとか、曲のタイムは1分台で終わってしまうとか、歌詞も物凄く短いとか、そんなことを考えていったら……」
――この、日本人のスタンダードに辿り着いたと。
「うん。ただ、この話はこれ以上しないほうがいいんでしょうね」
――(笑)この曲はサウンドのほうも強烈ですけどね。研次郎さんのスラップが効いていたりと、ずいぶんファンキーでユーモラスな曲になっていて。
「これはcali≠gariのなかでたまに出てくるネタみたいな曲? まあ、青さんで言えば“37564。”とか“-187-”とか、最近なら“クソバカゴミゲロ”みたいなのとかありますけど、こういうものは身近にいるようなバンドがやろうとも思ってないだろうし、やろうと思ってもできない感じのものなのかなって思ってて。やっぱり、アイデアだったり、ネタみたいな部分を出すときほど、自分が持ち合わせてるものがすごい重要じゃないですか。自分の志向してるものとか、いままでの経験値だったりとかっていうのは、こういうふざけたことをやったときに露呈してしまうっていうのがありますからね」