揺らめくギター・サウンドに導かれ、徐々に速度を落としていく時間の円環のなかで交錯する視点、繰り返される〈始まりと終わり〉――

 「バンドが20周年という節目を迎えて、そこで一度振り返ってみたかったアルバムなんですね、この『Parade』(2000年に発表された3作目)っていうのは。Plastic Treeの初期のエポックというか、その次の『トロイメライ』(2002年)からメンバーが変わってまた違ったものになってるんで、『Parade』はあの時期の――もともと自分たちがやろうとしていたことの集大成みたいな作品でもあったので」(長谷川正、ベース)。

 アレンジはまったく変えずに臨んだという昨年の『Parade』の全曲再現公演。ライヴDVD『結成20周年“樹念”ツアー「そしてパレードは続く」追加公演 於 渋谷公会堂』では完全なる〈いまの音〉として鳴っている12曲を確認することができるが、思えばその直前に届けられたシングル“マイム”も、長谷川いわく〈最初にPlastic Treeを始めたときに表現しようとしていたものに近い、バンドそのもののような曲〉だった。新曲への昇華とリアレンジなしの実演、2通りの手法で20年前の感性を現在へ引き寄せたアニヴァーサリー・イヤーのフィナーレを経て放たれるのは、ニュー・シングル“スロウ”。その完成までにはかなりの時間を要したという。

Plastic Tree スロウ CJビクター(2015)

 「自分でできるところまで一回作って、やっぱ違うなってなってたのも含めたら、ホントに何年前からあったんでしょう?っていう曲ですね。そこから正君と意見交換してくなかでメキメキ色付いて、曲になっていく様は手応えがあってよかったです。歌詞は、まずは奇麗な作品にしたいっていうイメージがあったんですけど、明確なものではなかったから、一回預からせて、って。それからは、音から引っ張り出された言葉を書き出していく作業をしてたんですけど、自分のなかで正解を出すのに時間がかかってしまって……」(有村竜太朗、ヴォーカル)。

 柔らかなディレイをたなびかせるギター・サウンドを基調に、メランコリーとノスタルジーを演出するチェロの旋律や儚い多重コーラスがレイヤードされたこのスロウ・バラード。今回も劇団イヌカレー泥犬がアートワークを担当しているが、そこに描かれているのは、時計をモチーフとする円環のなかに封じられた大量の人物像だ。それはさながら、時間軸のあちこちに浮かんでいる記憶の断片を一点に集め、コラージュしたかのような趣で……。

 「今回の作詞は絵を描くみたいな作業でしたね。だから〈どうしてここにこういう言葉があるの?〉って言われても困っちゃうんです(笑)。ただ分析すると、“スロウ”はもともとの成り立ちからして共作っていうのがあるから、そもそも自分が曲に持ち込んでた感情や世界観ってものと、正君が持ってきたメロディーに自分が触発された部分と、いろんな側面を持ってて。俺はそこがすごくいいなと思ったから、それぞれの部分に相応しい言葉を付けて、絵のように描いていったっていう……だからAメロとBメロとサビでも、急に個人の感情になったり、急に世界のことを歌ったりとか、視点もごちゃ混ぜなんですよ。だけど、全部〈時間〉のことを歌ってて。時間はみんなに平等で……始まりと終わり、その繰り返しっていう」(有村)。

 散文的な詞世界を美しい音の靄で覆ったような表題曲から一転、カップリングに収められたのは佐藤ケンケン(ドラムス)が詞を、ナカヤマアキラ(ギター)が曲を手掛けた“カオスリロン”。その名の通り、混沌とした展開を見せる鋭利なバンド・アンサンブル上でリズミックなメロディーとシニカルな言葉が躍る、挑発的なナンバーだ。

 「プラのなかでもこういう曲は、ナカちゃんが担っているところですよね。ケンちゃんの詞は、やっぱり歌のリズムに言葉を嵌め込むのが上手いし、おもしろいなって。メロディーラインの意味をちゃんとわかって書いてるなって思いますね」(有村)。

 そして通常盤には“マイム”の〈Voodoo Carnival Remix〉も。跳ねたビートが印象に残る原曲の特長にマッドチェスター調のグルーヴ感が加味され、よりサイケデリックに、よりダンサブルに強調された仕上がりだ。

 「イメージとしてはヴードゥーっぽいもので、もともと曲を作ったときにこういう発想もあったんです。ロック・バンドの手法じゃないんでどうかなあと思ったんですけど、こういうリミックスって形ならアリかなって」(長谷川)。

 なお、長谷川によるリミックス曲は今回が初出。これら3曲を誂えた本作とそのツアーをもって、21年目のPlastic Treeはキックオフする。

 「今後も作品を作ってツアーをやって、という活動になるとは思うんですけど、ただ、そのなかにひとつでもいいんで、毎回新しいものを盛り込んでいけたらいいなと思いますね」(長谷川)。