The Best Of Both Worldsと書いて〈マブダチ〉と読め! ラフな気分を詰め込んだ待望の公式タッグ盤は、両者の次章を示す気楽な力作なのだ!!

 

 

互いが互いのファン

 R・ケリー&ジェイ・Z、あるいはオマリオン&バウ・ワウ以来の〈The Best Of Both Worlds〉と見るか、それともゴシップ記事の常連が手を組んだお騒がせコンビと捉えるか。いずれにせよ、現行アーバン・メインストリームにおける最強タッグ、クリス・ブラウンタイガの初公式アルバム『Fan Of A Fan The Album』が、最初のアナウンスから2年を経てようやく登場した。

CHRIS BROWN & TYGA Fan Of A Fan The Album Young Money/Cash Money/RCA/ソニー(2015)

 今年デビュー10周年を迎えた説明不要のソングスターと、リル・ウェイン率いるヤング・マネー軍団の核として知られるカリフォルニアのラッパー。商業的な実績や(日本での)知名度には大きな開きがありそうだが、揃って89年に生まれた25歳の両名は良くも悪くもなかなかお似合いだと言える。相変わらず素行面の問題が解消されなさそうなクリスはもちろん、リアリティー・セレブであるカイリー・ジェンナーキム・カーダシアンの義妹)との交際も手伝って、そっち方面でもタイガはグングン顔を売っている真っ最中だ。それはともかく、昨秋には所属するキャッシュ・マネーへの不満をツイートして物議を醸し、以降も専門誌の取材でドレイクニッキー・ミナージュへの不快感を露わにするなど、結果的に引き起こした昨今のキャッシュ・マネーお家騒動も現在進行形のトピックである。で、そのドレイクといえばリアーナカルーシェ・トランを巡るクリス・ブラウンとのゴタゴタを覚えている人もいるだろうが……敵の敵は味方とかいう次元の話じゃなく、クリスとタイガの深い絆は以前から知られるところであった。

【参考動画】クリス・ブラウンの2010年のシングル“Dueces”

 

 そもそも、両者が最初に共作したミックステープ『Fan Of A Fan』が公開されたのは、クリスが逆境に晒されていた2010年のこと。ここから正規シングルとしてリリースされた“Dueces”がR&Bチャート首位に輝いたことでクリス再浮上の道が拓かれたことを思えば、タイガとの合体はまさに起死回生の一手だったのだ。同時に、ソロでの実績がなかったタイガにとってもクリスとのコラボは、翌年のビッグ・ヒット“Rack City”やヤング・マネーでのアルバム・デビューへ至る重要な呼び水となった。〈Fan Of A Fan〉というのは〈互いが互いのファン〉ぐらいの意味だろうが、双方に現実的な益をもたらす企てでもあったわけだ。

【参考動画】タイガの2011年のシングル“Rack City”

 

完璧なタイミング

 「家も近くてよくつるんでるし、本当に仲が良いんだ」(タイガ)という両者のコラボは、各々のアルバムやミックステープはもちろん、ゲーム“Celebration”(2012年)やプロブレム“Like Whaaat Remix”(2013年)などさまざまな音源上で実現されている。なかでも“Deuces”以来の成功となったのはクリスの最新作『X』(2014年)からの“Loyal”だ。そこから間を置かないアルバム発表はやや性急にも思えるが、クリスいわく「一緒にツアーを回って、曲の数も増えてきたからタイミングは完璧だ」とのこと。それはその通りだとしても、大きな要因としては先述したタイガの状況も挙げられるのではないか。

【参考動画】クリス・ブラウンの2014年作『X』収録曲“Loyal”

 

 そもそもタイガのレーベルへの不信は、自身のリリースよりドレイクとニッキーの作品が優先されてきたことに端を発しているという。似た経緯から旬を逃してしまうアーティストも多いだけに、クリスとしてはかつて窮地を救ってくれたロイヤル・フレンドに救いの手を差し伸べたかったのかもしれない。

 そんな背景ゆえか、完成を見た『Fan Of A Fan The Album』は、多くの豪華ラッパーをゲストに迎えてラフなストリート作法をプレゼンするという、良い意味でのミックステープっぽさを感じさせる内容となっている。かの“Loyal”を手掛けたニックナックによる先行ヒット“Ayo”にしても、スクールボーイQを交えた“Bitches N Marijuana”にしても、タイガのルーズでダウナーな振る舞いはもちろん、クリスの歌唱やラップも肩の力を抜けたフリースタイルのように響いてくる。つまり、そんなクリスの適正の高さもあって、過去の〈The Best Of Both Worlds〉作品と比べればラップ方面へ歩み寄った色合いが濃厚なのだ。そうやって(主に)お下品な楽しみを語り合う2人にクラブ映えする簡素でミニマルなビートを提供したのは、ジェス・ジャクソンデヴィッド・ドーマン、そしてDJマスタードといったタイガのブレーンをはじめ、ドラマー・ボーイアマデウスP・ロウHBKギャング)といったトラックメイカーたち。オープニングに“Westside”が置かれたことからもわかるように、LAやベイエリアの流儀からイマっぽさを抽出したサウンドは、(とりわけソロ作ではイノヴェイティヴであることを求められるクリスにとっては)日常の延長線上にある楽しげなモードを構えずに表現したものとも解釈できよう。

 カニエ・ウェストと共に完成させているというタイガの『The Gold Album: 18th Dynasty』がいつ届くのかは諸々の状況次第ではある。だとしても、それまでの〈つなぎ〉やティーザー以上の役割を伴って、今回の『Fan Of A Fan The Album』が両者のキャリアに大きな意味を刻むことは間違いないのだ。

 

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